放課後。

「あいつんち、行くべ」

 翔が控えめの声で切り出した。

「さんせー!」

 蒼太が手を挙げた。友達思いの沙羅が口を開く。

「あたしも行く!」

 ゆうも、僕も、とうなずいた。
 そんなゆうの足を止めるかのように、窓際の逸瑠辺(へるべ)さんが、ゆうの袖を引いた。

「いっしょに、帰ろう」
「え? ……でも航が……」
「おいでよ」

 小さい子がひっぱるかのように不器用に手をぐいと掴むと、そのまま廊下までゆうをさらった。

「おい、ゆう!」
「ゆうちゃん!」

 翔や沙羅が呼んでいるのを背中で聞いた。

逸瑠辺(へるべ)さん? 逸瑠辺(へるべ)さんったら」
「なんだい?」
「どこ行くの?」
「私んち、だよ」

 予想外の返事に、鼓動が早くなる。ロシアからきた、女の子……あの「お屋敷」に住んでいるという、不思議な子。お父さんとお母さんはどんなひとなのかな、とゆうは想像しては頬を赤らめた。

 ……