みかは、身体中血まみれになりながら、それでも立ち上がろうとした。

「あい……はら……ちゃんは……忘れない……」

 ごほっ。ごほっごほっ。口から黒い血を吐きながら……立った。

「いつも……いつだって……私のこと……見て……くれてた……もんっ!」

 そう。あゆみ先生は優しい笑顔で、言った。

「じゃあ、死んじゃうところも、見ててもらおっか?」

 どしゃっ……先生の腕が、みかを貫いた。

 ……

 始祖の気配が消えてから、ゆうは社務所を出た。
 真っ黒なおおかみが、浅く息をしている。もうすぐ、それも止まるだろう。
 しゅうう……黒い前足は手に、筋肉質な脚は、みかの足に。鼻は縮んで、知っているみかの顔になった。でも、身体中血まみれで、元気でおっちょこちょいの面影はもうない。
 それでも、何かしゃべろうとしている。ゆうは必死で呼びかけた。

「え……へへ。やっ……ぱり……相原ちゃん……覚えてて……くれた」
「わすれるもんか! みかは、いつも一生懸命、伝えようとしてくれていた!」

 嬉しいなあ。彼女は血まみれの顔でゆうを見た。

「ねえ……相原ちゃん……私を……たべて……私の全部をあげるから……わすれないで……わたしの……こと……」

 そして、忘れ物クイーンは、幸せそうに笑った。

「ね……だいすき……だから……ね……わすれない……で」

 数秒後、みかは息を引き取った。ゆうは、泣きながらみかを食べ尽くした。