『だめだ、愛しいきみ。行くな。これはワナだ』
「でも、すぐそこでみかがっ」
『二度も惨敗を喫してもまだわからないのかっ! 行けば殺されるだけだ。お母さんも二度と帰らない』
「くそっ、くそっ!」

 ゆうは社務所の床を叩いた。何度も。

 ……

 どかっ……どかっ……
 始祖は殺さない程度に、おおかみを蹴り続けた。

「あ……いはら……ちゃ……」
「あらあら、可哀想に。みかさんが大好きだった、ゆうくん。……来ないみたいね?」

 あゆみ先生は両手を広げて笑った。

「あっははははは。バレンタインで毎年一度もチョコを渡せなくて。それも家に忘れてきちゃったせいで! いつの間に沙羅さんに盗られちゃって! そんなになっても助けにも来てくれない」

 残酷な笑みを浮かべながら、瀕死のみかを覗き込んだ。

「『忘れちゃってる』のかもね。大好きな相原ちゃんも。みかさんのこと」
「ちがう……もん……」