令和六年六月二十一日、金曜日。一時間目、社会の授業。
 おおかみに遭ってから二週間以上が経った。あれからずっと、航は学校を休んでいるけど、あゆみ先生に聞いても言葉を濁すだけ。航なんて子は初めからいなかったかのように。

「ひと月後は何がありますかー?」
「大祇祭ー!」
「そうですね。みなさんは初めてですねえ」

 逸瑠辺(へるべ)さん以外、みんながおおきな声で答える。あゆみ先生はにっこり笑った。翔が目をきらきらさせて聞く。

「ごちそうが食べれるってほんと?」
「ふふ……ほんとです、みなさんがこの村の一員として認められる、だいじなだいじなお祭りです」

 航のことで小首を傾げていたゆうも、これには顔色を変えてわくわくした。なんたって、十二年に一度っきり。生まれて初めてのイベントにごちそうだ、期待しない方が無理に決まってる。
 と、その時、がたんと唐突な音を響かせて、不機嫌な転校生はおもむろに席を立ってしまった。

「ですから、今日はその大祇祭の歴史を勉強しましょう」

 はい、うしろに回してね。プリントを配るあゆみ先生は、教室を去るその生徒のことが見えてないかのように授業を続けた。

 ……