メガネをくいっとして、お父さんもゆうをいさめると部屋を後にした。
 沙羅と二人きりになった。小さな声で、ゆうの名前を呼んだ。

「……なに?」

 でも、ううん、と首を振るだけ。あれえ、ゆうは思う。こんなにしおらしい子だったっけ。

「ねえ、沙羅」
「ん? ──ん!」

 返事をするのと同時に、キスをした。三秒して、唇をはなした。沙羅は目をうるうるさせてゆうを見つめている。

「君が好きだ、沙羅」
「……うん、あたしも」

 ゆうが好きなのはベルのはずなのに。それは変わらないのだけれど。ゆうの中で、自分でもわからない何かが芽生えていた。