「ゆうちゃん! ……悪い夢、見たの?」
「……なんでもない」
「沙羅、よしなさい。さっきまで死にかけていたんだ」

 身体を起こしてお腹をさわる。……なんにもなってない。さっき身体を引きちぎられたかと思うくらいの打撃を受けた場所は、アザすら残っていない。

(……見えなかった……)

 打撃の直前、始祖は右手でゆうのおっぱいをつかんでいた。そしてゆうのお腹を殴ったのも、右手。一旦離して、そして殴ったのだ。新月の目をもってしても知覚できない速度で。

「待て待て、どこへ行く」

 立ち上がって部屋を出ようとするゆうに、おじいちゃんが呼び止める。

「学校。あゆみ先生がオリジンか、確認しに行く」
「今、夜の十時だよ。ここにいよ? ……学校は危ないよう」

 沙羅に時間を教えて貰って、ゆうはやっと時間を把握した。
 か細い声。心の底からの心配。ゆうにも伝わる。あなたが好きです、と。
 はあ、ため息をつくと、きびすを返して沙羅の横にどかっと座った。

「沙羅もベルも、みんな心配性なんだ。……僕は、男の子なのに」
「勇敢なのと向う見ずとは、違うよ」