「ゆうくん。愛しいきみ」
秋の夕暮れ空の下。あのお屋敷のかんおけの前。照明のつかない部屋は暗い。そんな暗くてかび臭い部屋で、ゆうはベルと窓に背を向けてひざを抱いて座っている。ぼろぼろの赤い服のぬいぐるみを、その手に持って。
「どうして、私の忠告を無視して逃げようとしなかったんだい? 痩せても枯れても私は新月のモノをきみより長くやってきた。……何年だと思う?」
ゆうはぬいぐるみをむにむにといじって、答えない。
「何年、生きてきたと思う?」
百年くらい? 旋毛を曲げていた。何年だってよかった。
「七百八年と十ヶ月だよ」
「……すごく、長生きだったんだね」
「その大半が、逃げ回る人生だった。ヒトの迫害から逃げる人生。おおかみから逃げる人生。十六年前からは、満月のオリジンからにげる人生。直近十一年は、封印されていたけどね」
ぎゅっ。ぬいぐるみをにぎる。いたいよう。そう言っているように見えた。
「……なにが、言いたいの?」
「愛しいきみ。きみより、恐怖をよく知っている」
「僕だって、僕だって二回オリジンと遭遇して、二回生きて帰ってる。今回、オリジンの正体も見破った。……いいじゃないか」
「一度目は仏壇に頭を突っ込んで失神。二度目は木の枝で剣山にされてお父さんに助けられた。運が良かっただけだ」
秋の夕暮れ空の下。あのお屋敷のかんおけの前。照明のつかない部屋は暗い。そんな暗くてかび臭い部屋で、ゆうはベルと窓に背を向けてひざを抱いて座っている。ぼろぼろの赤い服のぬいぐるみを、その手に持って。
「どうして、私の忠告を無視して逃げようとしなかったんだい? 痩せても枯れても私は新月のモノをきみより長くやってきた。……何年だと思う?」
ゆうはぬいぐるみをむにむにといじって、答えない。
「何年、生きてきたと思う?」
百年くらい? 旋毛を曲げていた。何年だってよかった。
「七百八年と十ヶ月だよ」
「……すごく、長生きだったんだね」
「その大半が、逃げ回る人生だった。ヒトの迫害から逃げる人生。おおかみから逃げる人生。十六年前からは、満月のオリジンからにげる人生。直近十一年は、封印されていたけどね」
ぎゅっ。ぬいぐるみをにぎる。いたいよう。そう言っているように見えた。
「……なにが、言いたいの?」
「愛しいきみ。きみより、恐怖をよく知っている」
「僕だって、僕だって二回オリジンと遭遇して、二回生きて帰ってる。今回、オリジンの正体も見破った。……いいじゃないか」
「一度目は仏壇に頭を突っ込んで失神。二度目は木の枝で剣山にされてお父さんに助けられた。運が良かっただけだ」

