翌日、令和六年六月五日、水曜日。

「あれ、休み?」
「わかんねえし。おれ、しらねえもん」

 航が学校をやすんだ。昨日のことで肝を冷やした翔も顔色が悪い。

「はいはーい。おしゃべりはおしまい。移動しますよー」

 一時間目は理科だ。あゆみ先生が、残りの九人に教室移動を呼びかけた。逸瑠辺(へるべ)さんは、校庭を見たままそっぽを向いている。

「……いこ?」

 沙羅が声をかけた。けれども彼女は気にもかけない。「行こうよ」ゆうの言葉に、ようやく顔を向けた。

「うん、行こっか」
「……なによ、それ」

 無視された沙羅はぼそっと言葉を吐くと、つんとして廊下に出て行った。

 二階の渡り廊下。午前中の眩しい光がきらきらと窓から差し込む。前を行く七人はがやがや喋っていて、古くて広い廊下によく響く。後ろを歩く二人──ゆうと不思議な転校生──は、ひそひそと話した。

「ねえ、なんで仲良くしないの?」
「むだだから」
「むだって……友達じゃんか」
「ううん」
「え?」

 聞き返すゆうに、彼女はぐいと腰をかがめて覗きこむ。

「友達なのは私達だけ」

 ふふ……二人だけの秘密だよ。水色の目は優しくそう笑うと、先を歩いていった。