ぐおおおおっ!
 それでも、攻撃はやめない。がぶり、と肩にかみついた。そして振り回して放り投げた。ベルベッチカは頭を打った。チャンスだと思った。このまま、心臓をひとかみしてやる。
 ベルベッチカの動きが止まった。

(今だ! 茜のカタキ! 思い知れ!)

 翔は、口を大きく広げていた。ベルベッチカの心臓をえぐりとるつもりで。だから、新月の目はそれを見逃さなかった。すかさず出したコルトSAAを口の中につっこんで、そして間髪入れずトリガーを引いた。
 だーん!
 銀メッキがされた弾丸は、喉を貫き、翔の小脳と脳幹を引き裂いた。

 ……

 翔は……倒れた。おおかみの身体を手放して、もとの十一歳の小河内翔の姿で。
 ゆうの放った弾丸は、翔の脳幹を貫いた。即死だった。そのはずだ。

 ……なのに今、どうして茜の手を、握っているんだろう……

 ゆうは涙が、涙が止まらない。

『きみ、二体立て続けでも、冷静さを欠かなかった。よくやったね、愛しいきみ』

 今日ばかりは、ゆうにベルの声は届かなかった。
 ゆうは二人を抱いて、何時間も泣いた。
 おかげで二人を食べ切るころには、日付を跨いでいた。