「もうあたりは暗くて、着いた時は真っ暗だった。で美玲んちも、真っ暗だったんだよ。晩ごはん時なのに、さ。美玲のお父さんもお母さんも自宅で働いてる人だから夜も居るはずだし、平日だったから夜出かけるのも変だなあって思ったんだ。それで、電柱の影から様子を見てたんだ。そしたらなんかさ……」

 少女の目に涙が浮かぶ。

「血……みたいな嫌な臭いがしてさ。……アタシなんでか、最近すごく鼻がいいんだよね。だからすぐ血の臭いだってわかった」

 あれ……
 と翔も思い当たるフシがあった。最近、鼻がよく利くのだ。かあちゃんが作る料理は家に入る前からわかっちゃったし、クラスメイトが校庭で転ぶと、やけに血の臭いが鼻についた。

「怖かったけど、なんとか逃げないで、美玲んちを見てたんだ。そしたら……出てきたんだ。がちゃりってドアを開けて」
「ベルベッチカが……?」

 うん、とうなづくその子の顔色はほんとに悪い。にぶい翔でもわかるくらい。

「だれかと電話してるみたいに、ぶつぶつ、話しながら」
「なんて言ってた?」
「覚えてないよ……えと、確か……『なるべく苦しませたくなかったんだ』とか『おおかみになった』とか……そんなこと言ってた」

 ……