「おおかみだっ」

 クラスで一番頭のいい航が叫んだ。
 ぐるるるる……それは地を這うようなうなり声をあげる。真っ黒な体に、血のように真っ赤に光る眼。二メートルくらいあるだろうか、目の位置も自分の目の高さにある。百四十五しかないゆうには、ものすごく大きく見えた。一本が消しゴムくらいある牙を剥く口そのから、ヨダレがしたたる。

「お、おい、じっちゃんのお守りはっ?」

 金髪の蒼太が真っ青になって、皆に聞く。大祇神社の孫娘の沙羅が「まって!」とランドセルを開ける。

「みんな、そっぽ向かないでっ」

 航が泣きそうに叫ぶ。沙羅がランドセルをそーっと下ろして、おおかみを見ながら中を探る。
 ぐるるるるる……うなり声をあげるおおかみは今にも飛びかかってきそうだ。けれど、おおかみに遭ったらぜったいに目をはなしてはならない……この村で育ったこどもは、みんな、物心つくころからそう言い聞かせられている。でも、いちばん前にいるたんけん隊長は平静を失ってしまった。

「うわあ──!」

 翔はそう叫ぶと、全速力でみんなをおいて逃げ出した。ぐああっ、おおかみがヨダレをたらしてこどもたち目掛けて飛びかかる。ランドセルをおいてしまっていた沙羅が取り残されて腰を抜かし「……ぁ、あ……」と恐怖で身体が動かず、引きつった声しか出せない。彼女を見て、ゆうはとっさに、「やめろ!」と叫び割り込む。
 ゆうの頭がひとつ、丸ごと入りそうな口が大きく開いた。

(やられる──!)

 ……