「ゆうっ、ゆうっ! これはなんだ、何があったっ? ゆう、ゆう! こっちを見なさい。母さんは、母さんはどうした? ……ゆうっ! くそ……一体何が……」
「……」
「あ、お夕飯時に失礼します、相原です。……はい、はい。静が。はい、居なくて……ゆうだけが……はい。では、はい、クルマで。はい、今からまいります」
「……」
「ゆう、今から樫田さんの所へ行く。こっちを見なさい。いいか、もう安全だからな。もう大丈夫だから。……だから。……すまない」
『すまない』
十一年前、初夏、夜。大祇村に隣接する岩手県Y市総合病院。
一階、ロビー。ばたばたばたと駆け込んできた毅を、総合案内の医療事務の女性が見る。
「あの、はあ、はあ。……相原です、妻が緊急搬送されたと聞きまして」
「奥様のお名前よろしいですか? ……少々お待ちください」
婦人科の看護師らしい女性が、毅を呼んでいる。
「相原……静さんですね。流産の手術のため緊急入院されています」
「流産……手術……?」
「申し訳ございませんが妊娠十三週での子宮内胎児死亡ですので、四、五日の入院が必要になります」
「胎児死亡……? もう、それは決まってるんですか?」
「……はい、そうですね。胎児は亡くなられています」
毅は口を押さえた。
「お悔やみ申し上げます。病棟は、C棟の六階、六〇三です」
「……」
「あ、お夕飯時に失礼します、相原です。……はい、はい。静が。はい、居なくて……ゆうだけが……はい。では、はい、クルマで。はい、今からまいります」
「……」
「ゆう、今から樫田さんの所へ行く。こっちを見なさい。いいか、もう安全だからな。もう大丈夫だから。……だから。……すまない」
『すまない』
十一年前、初夏、夜。大祇村に隣接する岩手県Y市総合病院。
一階、ロビー。ばたばたばたと駆け込んできた毅を、総合案内の医療事務の女性が見る。
「あの、はあ、はあ。……相原です、妻が緊急搬送されたと聞きまして」
「奥様のお名前よろしいですか? ……少々お待ちください」
婦人科の看護師らしい女性が、毅を呼んでいる。
「相原……静さんですね。流産の手術のため緊急入院されています」
「流産……手術……?」
「申し訳ございませんが妊娠十三週での子宮内胎児死亡ですので、四、五日の入院が必要になります」
「胎児死亡……? もう、それは決まってるんですか?」
「……はい、そうですね。胎児は亡くなられています」
毅は口を押さえた。
「お悔やみ申し上げます。病棟は、C棟の六階、六〇三です」

