お屋敷。青いとがった屋根に、白い手すりのバルコニー。窓は割れてないけど、全体が埃まみれで、ツタがはびこっている。こどもたちはみんなこの建物を「お屋敷」と呼んでいる。
 なんでも、明治時代に建てられたと沙羅のおじいちゃんに聞いた。古い古い、この大祇村にはまったく似合わない、西洋風の洋館。屋敷に住むという女主人は明治時代から、つい十六年前まで生きていたと伝え聞く。今も夜になると、おばあさんの叫び声が聞こえるなんてウワサまである。あゆみ先生には、ぜったいに行くなとなぜか言われているけど、そんなのたんけん隊員の僕らには関係ない。みんなで鎖に閉ざされた門をよじ登って、玄関前に入った。
 そういえば……さっきの翔の言葉で思い出した。あの子がここに住んでることを。
 と、その時。

「あ! よっしゃあ! もーうけっ!」

 翔がお屋敷のエントランス前まで走って、拾った百円玉をみんなの前で高く見せびらかした。
 あれ。誰も居ないはずのお屋敷のこんな所に、お金が落ちてたことなんて一度もない。だいたい、おとながここに来てるのを見たこともない。

「あー、ずりいぞ」
「いいなー、あたしも欲しい!」
「へへーん、帰りにひんやりしよっと。……ゆう、おごってやるよ!」

 そう言って、アイスを二本と交換できる夢のコインをポケットにしまった。
 ……そのお金は、きらきらしていた。
 それはまるでさっきまで……ここに誰かがいたみたいに。
 がさがさっ。
 がさがさっ。はっはっ。
 ナニカが全力で近づく音と息の音がして。
 突如、真っ黒なナニカが、翔の目の前に飛び出してきた。
 ゆうはそれと目が合った。

「きゃああっ」

 沙羅とみかが絹を裂くような悲鳴をあげた。

「やばい、おおかみだっ」

 クラスで一番頭のいい航が叫ぶ。
 ゆうは、初めて見るモノに、足がすくんで動けなかった。