「おぎゃあ。おぎゃあ」

 ばきん、と右手の新月の爪を思いっきり立てた。肉食動物の爪だ。
 ……とん。
 そして二十メートルの距離を目にも留まらぬ早さで縮めると、オリジンの首目掛けて振るった。
 ざんっ。
 手応えがあった。

(やったかっ?)

 けれど、ベルベッチカは後ろから信じられないくらいの力でなぎ払われた。
 ゆうに三十メートルは飛ばされて、道の脇の木に背中を強打した。

「がはっ」

 たったの一撃。何年も逃げ続けて来た逃亡生活は、たったの一撃で終了した。オリジンが息も上手くできないベルベッチカの髪をつかんで、言った。心を凍りつかせる程の、低く抑揚のない声で。

「会エテ嬉シイヨ。私ノベルベッチカ」

 ……