十一年前。夜、お屋敷の門を開け、中に入る二人の人影がある。
 一人は、新月の始祖、ベルベッチカ。髪を握られ、もう一人に引きずられている。

「動クナ」

 もう一人。夜の闇より遥かに濃く深い闇に覆われ、ヒトの形をしている以外見えない。
 彼女は必死に叫んだ。

「娘を、エレオノーラをどこへやったっ」
「アノ子ハ オ前ノ元ニ居ルヨリ 安全ナ所へ 預ケタ」

 お屋敷を正面玄関から入り、階段を上り、ベルベッチカの部屋に入ると、かんおけに押し倒した。
 ……手には十字架型の杭を持っている。

「……っ! 私を封印するつもりかっ」
「オ前ハ 十一年後ノ 儀式デ 必要ダ」

 ずどっ。

「きぃぃぃぁぁぁあああ!」

 ……

 あの黒いのが、始祖だろうか。

「……そうだね。そうなる」
「やっぱり、『見えない』んだね……。……ベルはずっと、このかんおけに封印されてたの?」
「……そうだね。……だからきみだと気付くのに時間がかかった。……すまない」

 ベルはゆうを抱きしめながら、詫びた。

「いいんだよ……僕も、こうしてベルと出会えて嬉しい。これ以上ないくらい」
「ありがとう……さあ、時間だ」

 ベルはゆうをはなして、三歩下がった。

「きみを待ってるヒトがいる。起きてあげないと、ね」

 そう言って、ベルは優しくはにかんだ。知っている誰よりも優しく、やわらかい顔で。