「ベル」

 かなかなかなかな、ひぐらしのなく、初秋の山奥。あの、お屋敷のベルの部屋の中。愛しいベルの黒いかんおけの横で、ゆうは立っている。
 腰まであるクセのあるブロンドヘア。青い瞳、少し膨らんだ胸。帽子で隠していないほんとのゆうの姿だ。さっきまでの学校の制服──グレーのハーフパンツ──を着ている。ハーフパンツは、血で汚れている。
 どんどんどん、ゆうはかんおけに大好きなその子が閉じ込められていると思った。

「ベル、ベル、開けて。開けてよ」
「エレオノーラ」

 とつぜん、耳元で声がした。ゆうが必死に呼んでいた女の子は、真後ろに立っていた。そして、懐かしいような聞いたことのあるような、そんな名前を口にした。

「エレオノーラ・リリヰ。きみのほんとの名前だよ。……私が付けた」

 ゆうよりも色素の薄い金髪は、同じようにクセがあって腰まである。水色の瞳、ゆうより痩せていて、全体的に細い。転校してきた時の、青いリボンの白いワンピースを着ている。

「お母さん……なの……? ベルが……」

 ベルはにっこり笑うだけ。