ベルベッチカが、小さく悲鳴をあげる。
 大丈夫か、とアレクセイが気遣う。

「う……ん……ちょっと、お腹が、張ってね……」

 冷たい冷たい、貨物船のコンテナの中。ウラジオストクで持っていたお金を出せるだけ出して、サビだらけの空きコンテナに乗せてもらった。冬の日本海は寒い。低気圧が近付いていて、雪が吹雪いて海は大しけだ。それに海という「水」に囲まれていて、吐き気が止まらない。狭いコンテナの中で必死にアレクが支えてくれているが、臨月の妊婦には過酷すぎる旅だった。

「オタルに着けば、そこでトーキョー行きの貨車を探そう。トーキョーまで行ければ、僕らは自由だ」
「はあ……はあ。と、トーキョーって、あとどれくらいだい?」
「……まだ、かかりそうだ」

 ものすごく揺れるコンテナの中で。明日こそは、明日こそはおおかみから自由に。その一心で、船旅を乗り越えた。ロシアの奥地から船に密航して、貨車に忍び込んだ。石炭を詰んだ貨車だった。屋根すらなかった。
 ベルベッチカの体力も、そこまでだった。がちゃん、と貨物列車がターミナルから動き出した頃。

「うああっ!」

 雪の降る貨物列車の上で、少女は産気づいた。必死にアレクが手を握りしめはげます中……無事に出産した。
 金髪に青い目……母親に瓜二つの女の子だった。

 ……