がらがらっ。ゆうは、家の扉を開けた。

「おかえり。あら、翔くんは?」
「来ない」

 そう言って、とんとんと階段を登って自分の部屋に入った。帽子を取って、机の上に置く。
 細身の姿見がある。前に立つがゆうの姿が映ることはない。

『そしたら、聞こえたの。泣き声が』
『本殿の脇、洞窟の入り口の赤い柵の下に、オレンジのダウンの上着に包まれた、まだへその緒も付いている小さな赤ちゃんが、冷たい石畳の上に置かれていたんだ』
『まさか……それって……』
『ああ、そうだ。ゆう、お前だ』

 はあ。今日はため息ばかりだ。
 何も映らない鏡の前でほっぺたを触る……とても柔らかい。沙羅のみたいだ。嫌だった、翔みたいになりたかった。やんちゃで、元気いっぱいで。男の子らしくて。

「……はあ」

 もう深く一度ため息をつきながら、青い瞳のゆうは長い金髪を帽子に仕舞った。