きゅるきゅるきゅる。
 きゅるきゅるきゅるきゅる。──ぶろろん!

「かかったっ!」

 アレクはアクセルを全力で踏み込んだ。どがっ、どがっ。フロントガラスに血がはねる。おおかみを二体はねた。
 もう一度、ベルベッチカは二人の……いや三人のものになるはずだった家を振り返る。一階から火が出ている。またたく間に広がって、彼女の家を焼いていく。
 その赤い光で網膜を焼き焦がしながら、吸血鬼の少女は涙に咽んだ。

 ……

 令和六年九月九日、月曜日。日本、岩手県、大祇村。

「なあ、なんでいつも帽子なの?」

 翔が、一時間目の社会の時間、後ろに座るゆうを見ながらひそひそ聞いてきた。

「なんでって……別にいいじゃん」
「なぞだよな。教室の中でも被ってるべ」
「はーい、そこ、おしゃべりしないですよー。ゆうくん。教科書六十五ページ読んでください」
「え、あ、はい! ……室町時代の後は戦国時代といい、各地の大名が……」

 ……