「今度は……どこまで逃げるの?」
「トーキョーだ! ジャパンの。ウラジオストクからホッカイドー行きの船が出てるはずだ。とにかく、裏に止めてあるクルマまで走れ!」

 アレクに手を引かれ、雪道を走る。ベルベッチカは自分の居た場所を振り返る。雪の積もった、白い家。ようやく手にしたはずだった、暖炉のある暖かい我が家。
 ぱりん、ぱりんぱりん。
 おおかみの手に落ちた我が家の、ガラスが割れる音がする。

(ああ……今度こそ大丈夫だと思ったのに……)

 彼女の目に涙が浮かぶ。パートナーが開けてくれた黒のSUVのドアに滑り込んだ。

「ほら、乗って!」
「駅まで百キロある。……無理だよ」
「ガソリンはある。大丈夫だ!」

 がんっ、SUVが大きく揺れる。

「きゃあっ」
「くそ、おおかみだっ!」

 彼は必死にキーを回す。が、寒さで中々エンジンに点火しない。
 がんっ、がんがんっ。

「……ベルベッチカ……見ツケタゾ……」
「ええい、かかれ、かかれ!」