「ベルベッチカ!」

 呼ばれた少女は振り返る。

「この村はもうダメだ、逃げよう!」
「でもアレク……どこへ? もう逃げきれないよ……それに」

 ベルベッチカは目を伏せた。

「おおかみなら、私でも相手できるよ」
「だめだ、君は身重なんだぞ。それに、『オリジン』がいる。僕らでは勝てないっ!」

 もうすぐ母になる少女は大きくなったお腹をさする。

「大丈夫だよ。私が必ず、守ってあげる」
「あおおおぉぉぉん──!」
「くそ、居場所がバレた! こっちだ!」
「あ、まってくれ」

 赤い服のぼろぼろのぬいぐるみをベッドの枕元から手に取った。

「……うん、大丈夫。ベルは、大丈夫……」
「……ベルベッチカ……」
「オリジンだ! すぐ近くまで来てるっ。早くっ! こっちだ! 裏口から逃げよう!」

 地を這うような低い声を聞いて、彼は焦る。