新しい家の可愛いドアを開けるなり、アレクが駆け寄り、聞いてきた。

「お医者さん、なんだって?」
「ふふふ。聞きたいかい? 私、今日そらを飛べるかもしれない」
「新月でもないのに?」
「ふふふ。三ヶ月、だって」

 アレクは、しばらく何も言わずにぼうっとしている。そんな彼に、ベルベッチカは耳打ちする。

「赤ちゃんだよ。ふたりの」
「……ええっ!」

 間の抜けた声を出す新しく父親になる彼に、少女ははにかんで、言った。

「ねえ、キスしておくれよ」

 ふたりは唇を重ねた。
 新しいお家に、暖かい暖炉。優しい恋人に、お腹に新しく宿った命。六百九十七年生きてきて、初めて感じる心の底からの、安堵。
 それから、約半年の間。
 赤ちゃんの靴下を編んだ。手袋を編んだ。ベビーベッドを、彼が作った。
 お腹が大きくても、彼は変わらず愛してくれた。綺麗だよと髪を撫でてくれた。
 幸せに……時間は過ぎていった。
 六百九十七年の中で、いちばん長い──そしていちばん一瞬の──半年だった。

 ……