ベルベッチカ・リリヰの舌の味 おおかみ村と不思議な転校生の真実

 気付くと、夕方遅い時間になっていた。一人で境内の仮本殿前で倒れている。ずきん、おなかが痛い。……みかがいない。

「みか? みかっ?」

 手にはおおかみの毛が入ったふたつのジップロック。それだけを残して、みかは消えた。
 ベルにも頭の中で呼びかけるが、彼女の気配もしない。

 夕焼けの田んぼ道を走った。下町のみかの家まで。なぜか今、新月の力が落ちていると感じる。いつものどんくさいゆうのスピードしかでないからだ。

(始祖が来て、ベルが戦って……負けたんだ。それでみかを連れていかれた。くそっ……くそっ! 僕はなんて……なんて無力なんだっ!)

 全力で走った。泣きそうになりながら走った。二十分ほど走って、みかの家に着いた。辺りは日が落ちてもう暗い。
 みかの家はお父さんが電気屋だ。木造の古い家屋に、白い看板。でも、シャッターが降りてる。

「あっ 電気に困ったら 岩崎電気」

 シャッターに古臭いキャッチコピーが書いてある。その脇の家に続く門を入って、玄関の呼び鈴を鳴らした。きーんこーん。
 はい、と木の古いドアを開けてみかが出てきた。

「みか……? さっきの神社の事だけど……」
「神社ぁ? なんのこと? 私なんだかすんごく眠たくてさ」

 みかはそう言うとあくびをした。あの時の、美玲のように。
 ……ゆうは笑顔を作って、そして告げた。

「ううん。なんでもない。おやすみ、みか」

 ……

『すまない、愛しいきみ。きみを守るので、精一杯だった』

 帰り道。ゆうは帽子の下で泣きながら走った。