「みか?」
「あ、うん、大丈夫」
「おー、ゆう、帰るべ」

 翔が相変わらずのテンションで話しかけてきた。

「悪い、先に帰ってて」
「はー? なんでよ」
「ちょっと、今日はダメなんだ。……ごめん」
「ちぇっ、なんだよそれ。つまんね」

 翔は唇をとがらせて、帰っていった。

「ありがとう」

 みかは下を向いて少し、はにかんだ。

「内緒にしてくれて」
「……なんとなく、言って欲しくなさそうだったから」
「……うん、みんなには内緒にして欲しくて」
「いいよ。……じゃあ、いこっか」

 ……

 みーんみんみんみん、セミが大合唱。今日は本当に暑い。東北でも山間の盆地に位置するこの村は、暑くなるときは容赦しない。田んぼに面する道路では、ミミズが干からびていた。大人より背の低い子供には、アスファルトが鉄板みたいで、より一層暑かった。
 ゆうはこんな日にももちろん、キャップは欠かせない。目深に被って、決して人には髪を見せない。

「あぶないよ、クルマ来るよ」
「いいのいいの。真ん中歩きたくて」

 あれ以来、田んぼが怖い。

『それと、水を恐れる。水に近づきたがらない』

 おじいちゃんの言う通りだ。ここ数日は、手も顔も洗ってない。

 ……