「とうちゃんに言われたぞ、あのお屋敷の子はだめだって」

『その子とはもう、遊ぶんじゃない』

 夕べの言葉がよみがえる。たしか、翔のお父さんは森で木を切ってるヒトだ。

(なんで翔も? ってか、あそこに住んでるの?)

 そこはゆうれい屋敷だの悲鳴が聞こえるだのと、こどもたちの間で有名なお屋敷だ。

「いや、そんなこと言っちゃだめだろ」
「と、とにかく、お前はだめだし。入れてやんねえし」

 翔はなぜか、かたくなだ。空のように澄んだ瞳のその女の子はゆうを見たまま、口を開いた。

「ねえ、ゆうくん……だっけ? 今日は、私のとこにおいでよ」

 予想外の言葉に、頭の中が止まる。またマスクの下で笑った。

「私のうちに、来て欲しいな」

 本当に綺麗な瞳をしている。こんな間然する所のない女の子に、誘われたことなんてないゆうは顔を赤くした……けど、見つめるその目をそらせない。

「ねえ、ゆうくん」
「だめだったら!」

 翔が間に割って入る。

「ゆうはおれらと行くの。お前はだめ」

 昨日と明らかに違って頭を振るばかりの態度にゆうは戸惑った。いつものバカみたいに明るい彼らしくなかった。

「別にいいよ。きみ、犬臭いし」
「おれ飼ってねえし!」
「ねえ、ゆうくん。いこ?」
「無視すんなし!」

 翔がいらだつ。それでも白い肌のその子は、構わずゆうの手を引いた。とても……冷たくて。なぜだか思わず手を振り払ってしまった。

「ぼ、僕、翔と行くから。また今度ね!」
「おっしゃあ、ゆう、いくぞー」

 いつの間に増えた、女子唯一のメガネで忘れ物クイーンのみかもあわせて六人で、教室を後にした。
 背中がちりちりして気が差した。ゆうの席の前で立っている逸瑠辺(へるべ)さんが、ずっと、見ている気がして。