ファッションショー用衣装の採寸の日は、他の大学のミス・ミスターコンの人たちも集まり、なかなか賑やかだった。
コミュ強な人たちがさっそく会話をしているのを、すげーなーと思いながら眺めていると「鷹野さんですよね?」と横から声をかけられた。
そこにいたのは女の子の二人組で、「はい」と返事をすると、二人で手を握り合ってキャーッと小さな声をあげる。
「私たち、鷹野さんのピンスタ、フォローしてて、あの、ミスターコンテストも応援してます」
「あー、ありがとうございます」
「劇も絶対見にいこうと思ってます」
「ほんとですか。よろしくお願いします」
頭を下げると、後ろから突然がばっと抱きつかれる。
「劇、見に来てくれるんですか? ありがとうございまーす」
乱入してきた透真さんに、女の子たちがびっくりしたように手で口を押さえながら頷く。
同時に、後ろのほうからも「ゆーとま……!」という声が聞こえ、意外と身近なところでもこの呼び名が知られてるんだなぁと他人事のように思う。
でも、一緒のイベントに出るわけだから、透真さんや自分のSNSをチェックしている人はけっこういるのかもしれない。イッシーさんも、他の大学のミスコン参加者の中で好みの子を見つけたとか言ってたっけ。この衣装合わせかファッションショー当日に声をかけてみるつもりだと宣言して、うちの大学の評判を下げるようなことだけはしないでくださいと、実行委員から釘をさされていた。
「あの、こっちの子が西原さん推しで、あ、私は鷹野さん推しなんですけど」
女の子の一人が、あたふたと説明をし、思わず「透真さんより俺がいいとか変わってますね」とその子に声をかけてしまう。どう見たって透真さんの方がイケメンだし性格もいいしスペックも高い。
「え、そんなこと、あの、もちろん西原さんもかっこいいですけど、鷹野さんかっこいいし、マイペースというか自分を持っているところがすごくいいし、投稿とかも可愛いなって思うし」
「あれー、マイペースなとこが好きって言ってくれるのは俺だけとか言ってたけど、他にもいるじゃん」
透真さんが後ろから俺の肩に顎を載せてくる。
「いましたねー」
一応そう答えるが、同じように言ってくれていた昔の彼女から、実際に付き合ってみたらここまでだとは思わなかったという感想をもらったことがあるので、この女の子のマイペースでもいいという言葉を真に受けることはできない。
「なんか俺に言われたときよりも嬉しそうだし」
「そう?」
「そう。妬けるな~……なんてね。ありがとね、俺のこと推してくれて」
透真さんは自身を推しだという子に手を振り「あ、イッシー」と言ってあっさり俺から去っていった。
取り残された三人の間に、沈黙が落ちる。
「すごい……仲良しですね」
少しして、俺を推してくれていると言った子がまた話しかけてきた。
「まあ仲はいいですね」
「今のは、いわゆるカップル営業的な……?」
「? カップル営業ってなんですか?」
またしても聞きなれない言葉に問い返すと、女の子たちは、なぜか再び手を握り合った。
「つまり、あれは素、と言うことで」
「透真さんすか? そうですね、素でもいつもあんな感じです」
そう答えたところに、服飾チームのリーダーらしき人から声がかかる。
「じゃあ、そろそろ各チームに分かれてもらいます! チームの方から名前を呼ばせもらいますので、呼ばれた方は、そのチームと一緒に教室に移動してください」
それを聞いて、女の子たちが慌てたように去っていった。どうやらミスコン参加者ではなく、服を作る側の子たちらしい。
自分の名前を呼んだチームは三名編成で、さっきの透真さん推しの子もいた。
移動先の実際の衣装をいったん着てみて、足りない部分や逆に余っている部分を確認したうえで、採寸をされる。こんなに測るんだ、と思うくらい細かい。
「鷹野さんって一見細く見えるけど、けっこう肩幅あるし腕の筋肉もありますよね」
「あー、一年のときは裏方メインで重いもの運ぶことも多かったんで、鍛えられたっていうのもあるかもしれないですね」
「一年生のときは、舞台に出ることはなかったんですか?」
「いや、出ましたけど、ちょい役がほとんどで」
「それで今回主役ってすごいですね」
「んー、まあそもそも透真さんが主役って言うのが先に決まってて、舞台の見栄え上透真さんより少しでも背が高いほうがいいから選ばれたところもあるんで」
「それだけで?」
「ですね」
もちろん、実際にはそれだけではなく、ちゃんと部内でオーディションもした。自分自身も高校では常に主役か準主役という立ち位置だったから、演技に関してまったく自信がないわけではない。
でも、透真さんと並んだときにその実力の差は歴然としていて、それが分かっていながら実力で主役に選ばれましたとは、今の段階ではちょっと言いづらいものがある。
「なんかけっこう鷹野さんって淡々としてる感じだし、演劇部っていうのがちょっとだけ意外なんですけど、もともと演劇部に入った理由ってなんだったんですか?」
腰回りをメジャーで測っている透真さん推しの子が聞いてくる。
「友達に、演劇部に入って感情を覚えろって勧誘されたからです」
それを聞いたチームの人たちが、あははっと笑う。冗談を言っていると思われたのかもしれない。単なる事実なのだが。
「感情がなかったんですか?」
「さすがに感情はあったんですけど、あんまりそれを外に出すのが得意じゃなくて」
「じゃあ演劇でそこを学ぶみたいな」
「んー、でも、感情の表し方は演劇でいろいろ学びましたけど、あんな大げさな言動は日常では使えないし。結局、傍から見たら相変わらず感情があんまりないように見える人間だろうなとは思ってます」
だから、付き合っていた子のことをちゃんと好きだったとは思っても相手には伝わらなかったし、そのせいで相手の子がいろいろと駆け引きのようなことをしてきても自分が悪いのだからと受け入れていたら、最後は向こうから離れていってしまった。
「確かに、西原さんが鷹野さんを大好きなのはめちゃくちゃ伝わりますけど、鷹野さんのほうはいっつも平然としてる感じですもんね。そこが、二人の良さでもあるとは思うんですけど」
「あ、そうですか? 俺も透真さんのこと好きですけどね」
普通に答えると、透真さん推しの子が「す……っ」と言って口を押さえる。
あ、これは誤解されたかなとは思うが、透真さんなら宣伝になるからとそのままにしておくような気がするので、あえて弁解などせず黙って採寸の続きをしてもらい、終了後は水曜日のお楽しみである特売の焼きそばを買うためにさっさと帰ることにした。
その日、案の定というか「ゆーとま」の裏話がSNSにいくつも流れたらしく、わざわざ検索したらしい透真さんから楽し気な声で連絡が来た。
「なんかね、俺がユウのファンの子にマウント取ってたとか、ユウに対してあざとく嫉妬してみせてたとか、ユウが俺のこと好きだって言ってたとか、ユウは感情があまり出ないだけでけっこう情熱的っぽいとか言われてる」
「書いている人の主観がだいぶ入ってますね」
「そんなもんだろ。ってか、ユウって俺のこと好きだったんだ?」
「後輩としてね。透真さんは俺が反応薄くても気にせずがんがん来てくれるから」
「お、ユウがデレた」
「事実を言っただけですけど」
実際、透真さんのおかげで、俺が反応が薄くても別に人見知りをしていたり怒っていたりしているわけではないと言うことを演劇部のみんなも分かってくれて、かなり素の自分でいることができている。
俺の答えに笑った透真さんは「じゃあ、次はファッションショーの日だな。あとさ、打ち上げの飲み会はやっぱユウは来ないの?」と聞いてくる。
「レコードショップのセールに行くほうが、今後縁が続くとも思えない人たちより大事なんで」
「ま、それがユウだよな」
またいいレコードあったら教えて、と明るく言って電話は切れた。
*
SNSで問題の写真が拡散され始めたのは、ファッションショーが無事に終わった次の日だった。
自分たちの中で最初に気付いたのは透真さんで、ファミレスに呼び出したミス・ミスターコンの実行委員二人、そして俺の前で頭を深々と下げた。
「本当にごめん」
真っ青な顔をした透真さんに「私たちもさっき見た」と実行委員の女の先輩が答え、何も事態が分からずに「ファッションショーで何か問題でもありました?」と聞いた自分に、もう一人の男の先輩が説明をしてくれる。
「いや、ファッションショーとは別問題……と言っていいのかはまだ分からないけど、西原くんが上半身裸で寝てる写真が拡散されてる」
「は?」
「一応、目のあたりはモザイクかけられてるけど、髪の毛とかそのままだし、知ってる人が見たら一発で特定できる感じで」
「……見てもいいっすか」
実行委員の人が差し出してきたスマホを見る前に透真さんに聞くと、無言の頷きが返ってくる。
改めてスマホに目を向けると、背景もぼやかされた中、ソファらしきところに寝転がる透真さんの白い上半身だけが鮮明に映っていた。鼻から下もモザイクがかかっていないし、成瀬役に向けて伸ばしている茶色い長い髪も乱れて広がっている。確かに透真さんのことを知っている人ならすぐに分かると思われた。
さらに、酒が入っていたのであろうグラスを持ちピースサインをしている爪の長い手がアップで映り込んでいるところに、何とも言えない悪意が感じられ、思わず眉根を寄せてしまう。
「なんすか、これ。こんなの透真さんがどう見ても被害者じゃないですか。なんで透真さんが謝る必要があるんですか」
「問題は」
さっき説明してくれた実行委員の人が俺に言い聞かせるようにゆっくりと言葉を紡ぐ。
「この画像をピンスタのストーリーに載せた人が、一緒に飲んでたら急に襲われそうになったけど、強い酒飲ませて撃退したっていうキャプションをつけてることで」
「はぁ!?」
「同性の後輩とカップルみたいに振舞ってたから安心してたのにひどい、みんなも騙されないようにとも書いてあった」
「でね、これが広まったせいで、西原くんのSNSはもちろんなんだけど、鷹野くんのSNSも少し荒れ始めていて」
あとを引き継ぐように女の先輩が話し出す。
「まあでも鷹野くんのほうは、失望したとかそういう言葉もあるけど、西原くんのカップル営業に付き合わされて可哀そうとか、そういう意見が多いかな。ただ、クイアベイティングじゃないか、っていう意見も一件だけだけど書かれてて」
「なんですか、そのクイアなんとかって」
「簡単に言えば、同性愛者やバイセクシャルじゃないのに、そう振舞って世間の注目を集めることを言うみたい。そういう意味では、私も二人に気軽にコンビ売りをしてくれって言ってしまって、申し訳なかったと思ってる。浅はかだったなって。今のところ、二人の投稿は仲のいい先輩後輩の範囲は越えてないし、ちゃんと最初の動画のときに、鷹野くんが西原くんの『好き』っていう言葉に対して、後輩としてって言ってくれてるし、大丈夫だとは思うんだけど」
「ただ、万が一クイアベイティングしてるってネットニュースにでもなったら、今回のイベント事態が中止となる可能性もあるかもしれない。もともと、ミスコンとかミスターコンとかって、セクシズムとかルッキズムとか、そういう面もあって、いろいろ慎重にならないといけないところもあるから、少しの間、このまま何も投稿とかしないで、動向を見守ったほうが……」
「じゃあ、透真さんの不名誉な噂はどうやって晴らすんですか」
俺の問いに、実行委員の二人が答える前に、透真さんが口を開いた。
「正直なところ、時間が経つのを待つしかないと思う。自分が何もしてないって、証明もできないしさ。逆に反論することでもっとこの問題が広まって、それこそイベントの中止につながっても申し訳ないし。あとは、俺がミスターコンを辞退して、SNSも消すか……」
「そんなことしたら、事実として認めたって思われかねないからダメでしょ」
「ってかさ」
透真さんが少しだけ笑う。
「ユウは、俺のことまったく疑わないんだ」
「当たり前じゃないですか!」
思わず語気荒く答えてしまう。
「ただ、なんでこんなことされたんすか。そんな恨み買うようなことしました?」
俺の問いに言い淀んだ透真さんに「この写真載せた子、石森くんが気に入ってた子でしょ? もしかして石森くんのために避けて恨まれたとか? 昨日の飲み会の最初、一緒に飲んでたけど途中で石森くんと場所変わってたよね」と実行委員が訊ねる。
「……イッシーのことも確かにちょっとはあるけど、そこまで大きな理由ではないと思う。と言っても、俺自身もなんでそこまで恨まれたのかは分かんないんだけど。正直なところ」
はあ、とため息をついて透真さんが説明をはじめる。
「最初から話すと、採寸の日に、ユウのことが気になるから、ファッションショーのあとの打ち上げで二人で話すチャンスを作ってほしいってあの子に言われたのよ。ユウは採寸の前は別の女の子たちに話しかけられてたし、帰りもすぐいなくなったから声をかけられなかったって言って」
「あそこのスーパー、夜8時に閉まるんで、焼きそばが……」
「いや、早く帰ったのは別にいいんだけどさ」
透真さんが苦笑する。
「ファッションショー当日も、終わったらすぐレコード店のセールに行くってのは前から聞いてたし、ユウは来ないと思うよって言ったんだけど、それでもどうにか誘ってくださいお願いしますって言うだけ言って帰られちゃって。でも、当日ユウがいなければ諦めるだろうと思ったのね」
そういえば昨日、ユウは大事な用事があるから先に着替えさせてやってと透真さんが他の人にも声をかけてくれていた。あれは、俺が呼び止められる前に帰れるよう、気を遣ってくれていたということだろう。
礼だけ言って、うきうきとレコード店に向かっていたのんきな自分の頭を小突きたくなる。
「そうしたら、飲み会が始まってからなんでユウを連れてこなかったんだってすごいしつこく言われて、あいつも用事があるからって言ったんだけど、私が会いたいって伝えてくれたの、とか聞いてきてさ。言わなかったって答えたら、信じられないってこっちが引くくらい怒っちゃったから、ごめんねって謝って、すぐにイッシーに声かけて席を代わってもらったわけ。でも、一次会が終わったときにその子にメモを渡されて、見てみたら、本当に悪いと思ってるなら、この後ここに来てくれって店の名前が書いてあって」
そこで無視すれば良かったんだけど、と透真さんは続けた。
「ミス・ミスターコンの実行委員同士が協力してファッションショーも成功させたところで、あんま揉めるのもよくないだろうって思ってとりあえず店に行ったら、バーみたいなとこの個室でその子が待っててさ。ユウを連れていかなかったうえに、イッシーを横にいかせたことで、誰でもいいんだろうと思われたみたいで傷ついたって言われたのよ。だからまた謝ったら、じゃあ、ここで自分とのツーショットを撮ってくれたら許すって言い出して。ユウのほうが意外性があって話題になると思ったけど、俺でもいいとか言われて、なんの話かと思ったら、自分のSNSにユウと二人で飲んでるところを載せたかったんだってさ。でも、俺らにとっては別にメリットないしイッシーと揉める原因になりそうだし断ったら、そのときはけっこうあっさり引き下がってくれたのよ。それで、いろいろ我儘言ってごめんなさい、迷惑をかけたからってお酒を頼んでくれて、こっちもちょっと悪いって思う気持ちもあったから断り切れなくて一口飲んだら、そっからマジで記憶がなくなって。相当強い酒だったのか、なんか薬盛られてたのか、分かんないけど」
「うわー、たち悪いな」
実行委員の男の先輩が顔をしかめるのに対し、透真さんは「しかもさ」と静かに言った。
「しばらくして、めちゃくちゃ乱暴に起こされて、目を覚ましたらシャツは脱げてるし、もちろんその女の子はいないし、何があったんだって思ってぼーっとしてたら、俺を起こしたバーの人にいくら酔ったからって女の子をこんなところで襲おうとするなんて最低だって言われて。びっくりだよな。なんか、襲われそうになったのをなだめてお酒を飲ませてたら寝てくれたから、今のうちに逃げるって言って帰っていったんだって」
個室だし、目撃者は誰もいないし、こういうとき男は弱いよなと諦めた口調で言う透真さんを見ているうちに、胸の中になんとも言えない怒りが湧いてくる。
「なんでわざわざそんなことしなきゃいけなかったんですかね。普通に頼んでくれれば写真くらいファッションショーの会場で撮ったって良かったし、しかも透真さんは何も悪いことしてないのに、ここまでする意味がマジで分かんないんすけど」
「SNSで注目されるってことが、人生のすべてみたいになってる人っているんだよ」
先輩の女子が重いため息をついてスマホを見せてくる。そこに映し出されていた透真さんを陥れた女子のSNSは、カラフルで明るくて楽しいこと綺麗なことだけで満ち溢れているようで、そんな世界で本人も満ち足りた笑顔を見せていた。それなのに、なんでわざわざこんな汚いことをしなければいけなかったのだろう。
心の中で抱いた疑問が聞こえたかのように、先輩が続ける。
「依存症みたいなもんだからさ、もっともっと注目されたいってなっていって、一つでも多くいいねをもらうためなら何でもやるようになっちゃう。だから、バズると踏んでた鷹野くんとのデートっぽいツーショを撮れないってなったらイライラが抑えられないし、それだったらと思った西原くんとのツーショも断られて、ぷつんってなったんだろうね。ツーショットで注目を集められないなら加害者に仕立て上げて、自分は被害者ぶって注目を浴びようってなったんだと思うよ」
「頭おかしいですね」
「おかしいのよ。じゃなかったこんなことしない。――とにかく今は、西原くんはSNSをできるだけ見ないでおいたほうがいいと思う。代わりに私たちのほうで見ておくから。あと、ミスターコンはまだ辞退する必要ないからね。どうしようもなくなったら、学生課に相談しようね」
「あと、静観したいっていうのは、もう一つ理由があってさ。全員が全員この子の投稿を信じてるわけじゃなくて、自作自演じゃないかって声も出てるんだよね。で、その中に、西原くんと鷹野くんが夕飯について話してる動画の中で、飲んだらすぐに寝るって言ってたのに、一緒に飲んでて襲うなんてことできないんじゃないかって意見もあって」
「あー……そんなこと話してましたっけ」
「そう。で、その意見に、今『いいね』が、けっこうつき始めてる。つまり、西原くんの味方がゼロってわけではないからもうちょっと動向を見たいわけ。もちろん、ここぞとばかりに被害者の味方ぶって正義を振りかざしたい人もいるから、どうしてもぱっと見で被害者になるところだった女の子をかばう声は大きくなるだろうけどね」
「分かった。SNSはしばらく見ないことにする。あと、ありがとう、二人とも俺のこと信用してくれて」
頭を下げた透真さんの顔色は、だいぶいつも通りに戻ってきていた。
「ユウも、ごめんな。俺が調子に乗ったせいで、嫌な思いさせて」
「透真さんに嫌な思いさせられたことなんて一回もないですよ」
そう言い切ると、ようやく笑顔になった透真さんが「やっぱユウっていいよな。好きだわ」と言う。
「俺も好きって言われるの好きなんで、どんどん言ってください」
俺の返事に「やっぱ、ゆーとま最高!」と先輩女子が笑った。
コミュ強な人たちがさっそく会話をしているのを、すげーなーと思いながら眺めていると「鷹野さんですよね?」と横から声をかけられた。
そこにいたのは女の子の二人組で、「はい」と返事をすると、二人で手を握り合ってキャーッと小さな声をあげる。
「私たち、鷹野さんのピンスタ、フォローしてて、あの、ミスターコンテストも応援してます」
「あー、ありがとうございます」
「劇も絶対見にいこうと思ってます」
「ほんとですか。よろしくお願いします」
頭を下げると、後ろから突然がばっと抱きつかれる。
「劇、見に来てくれるんですか? ありがとうございまーす」
乱入してきた透真さんに、女の子たちがびっくりしたように手で口を押さえながら頷く。
同時に、後ろのほうからも「ゆーとま……!」という声が聞こえ、意外と身近なところでもこの呼び名が知られてるんだなぁと他人事のように思う。
でも、一緒のイベントに出るわけだから、透真さんや自分のSNSをチェックしている人はけっこういるのかもしれない。イッシーさんも、他の大学のミスコン参加者の中で好みの子を見つけたとか言ってたっけ。この衣装合わせかファッションショー当日に声をかけてみるつもりだと宣言して、うちの大学の評判を下げるようなことだけはしないでくださいと、実行委員から釘をさされていた。
「あの、こっちの子が西原さん推しで、あ、私は鷹野さん推しなんですけど」
女の子の一人が、あたふたと説明をし、思わず「透真さんより俺がいいとか変わってますね」とその子に声をかけてしまう。どう見たって透真さんの方がイケメンだし性格もいいしスペックも高い。
「え、そんなこと、あの、もちろん西原さんもかっこいいですけど、鷹野さんかっこいいし、マイペースというか自分を持っているところがすごくいいし、投稿とかも可愛いなって思うし」
「あれー、マイペースなとこが好きって言ってくれるのは俺だけとか言ってたけど、他にもいるじゃん」
透真さんが後ろから俺の肩に顎を載せてくる。
「いましたねー」
一応そう答えるが、同じように言ってくれていた昔の彼女から、実際に付き合ってみたらここまでだとは思わなかったという感想をもらったことがあるので、この女の子のマイペースでもいいという言葉を真に受けることはできない。
「なんか俺に言われたときよりも嬉しそうだし」
「そう?」
「そう。妬けるな~……なんてね。ありがとね、俺のこと推してくれて」
透真さんは自身を推しだという子に手を振り「あ、イッシー」と言ってあっさり俺から去っていった。
取り残された三人の間に、沈黙が落ちる。
「すごい……仲良しですね」
少しして、俺を推してくれていると言った子がまた話しかけてきた。
「まあ仲はいいですね」
「今のは、いわゆるカップル営業的な……?」
「? カップル営業ってなんですか?」
またしても聞きなれない言葉に問い返すと、女の子たちは、なぜか再び手を握り合った。
「つまり、あれは素、と言うことで」
「透真さんすか? そうですね、素でもいつもあんな感じです」
そう答えたところに、服飾チームのリーダーらしき人から声がかかる。
「じゃあ、そろそろ各チームに分かれてもらいます! チームの方から名前を呼ばせもらいますので、呼ばれた方は、そのチームと一緒に教室に移動してください」
それを聞いて、女の子たちが慌てたように去っていった。どうやらミスコン参加者ではなく、服を作る側の子たちらしい。
自分の名前を呼んだチームは三名編成で、さっきの透真さん推しの子もいた。
移動先の実際の衣装をいったん着てみて、足りない部分や逆に余っている部分を確認したうえで、採寸をされる。こんなに測るんだ、と思うくらい細かい。
「鷹野さんって一見細く見えるけど、けっこう肩幅あるし腕の筋肉もありますよね」
「あー、一年のときは裏方メインで重いもの運ぶことも多かったんで、鍛えられたっていうのもあるかもしれないですね」
「一年生のときは、舞台に出ることはなかったんですか?」
「いや、出ましたけど、ちょい役がほとんどで」
「それで今回主役ってすごいですね」
「んー、まあそもそも透真さんが主役って言うのが先に決まってて、舞台の見栄え上透真さんより少しでも背が高いほうがいいから選ばれたところもあるんで」
「それだけで?」
「ですね」
もちろん、実際にはそれだけではなく、ちゃんと部内でオーディションもした。自分自身も高校では常に主役か準主役という立ち位置だったから、演技に関してまったく自信がないわけではない。
でも、透真さんと並んだときにその実力の差は歴然としていて、それが分かっていながら実力で主役に選ばれましたとは、今の段階ではちょっと言いづらいものがある。
「なんかけっこう鷹野さんって淡々としてる感じだし、演劇部っていうのがちょっとだけ意外なんですけど、もともと演劇部に入った理由ってなんだったんですか?」
腰回りをメジャーで測っている透真さん推しの子が聞いてくる。
「友達に、演劇部に入って感情を覚えろって勧誘されたからです」
それを聞いたチームの人たちが、あははっと笑う。冗談を言っていると思われたのかもしれない。単なる事実なのだが。
「感情がなかったんですか?」
「さすがに感情はあったんですけど、あんまりそれを外に出すのが得意じゃなくて」
「じゃあ演劇でそこを学ぶみたいな」
「んー、でも、感情の表し方は演劇でいろいろ学びましたけど、あんな大げさな言動は日常では使えないし。結局、傍から見たら相変わらず感情があんまりないように見える人間だろうなとは思ってます」
だから、付き合っていた子のことをちゃんと好きだったとは思っても相手には伝わらなかったし、そのせいで相手の子がいろいろと駆け引きのようなことをしてきても自分が悪いのだからと受け入れていたら、最後は向こうから離れていってしまった。
「確かに、西原さんが鷹野さんを大好きなのはめちゃくちゃ伝わりますけど、鷹野さんのほうはいっつも平然としてる感じですもんね。そこが、二人の良さでもあるとは思うんですけど」
「あ、そうですか? 俺も透真さんのこと好きですけどね」
普通に答えると、透真さん推しの子が「す……っ」と言って口を押さえる。
あ、これは誤解されたかなとは思うが、透真さんなら宣伝になるからとそのままにしておくような気がするので、あえて弁解などせず黙って採寸の続きをしてもらい、終了後は水曜日のお楽しみである特売の焼きそばを買うためにさっさと帰ることにした。
その日、案の定というか「ゆーとま」の裏話がSNSにいくつも流れたらしく、わざわざ検索したらしい透真さんから楽し気な声で連絡が来た。
「なんかね、俺がユウのファンの子にマウント取ってたとか、ユウに対してあざとく嫉妬してみせてたとか、ユウが俺のこと好きだって言ってたとか、ユウは感情があまり出ないだけでけっこう情熱的っぽいとか言われてる」
「書いている人の主観がだいぶ入ってますね」
「そんなもんだろ。ってか、ユウって俺のこと好きだったんだ?」
「後輩としてね。透真さんは俺が反応薄くても気にせずがんがん来てくれるから」
「お、ユウがデレた」
「事実を言っただけですけど」
実際、透真さんのおかげで、俺が反応が薄くても別に人見知りをしていたり怒っていたりしているわけではないと言うことを演劇部のみんなも分かってくれて、かなり素の自分でいることができている。
俺の答えに笑った透真さんは「じゃあ、次はファッションショーの日だな。あとさ、打ち上げの飲み会はやっぱユウは来ないの?」と聞いてくる。
「レコードショップのセールに行くほうが、今後縁が続くとも思えない人たちより大事なんで」
「ま、それがユウだよな」
またいいレコードあったら教えて、と明るく言って電話は切れた。
*
SNSで問題の写真が拡散され始めたのは、ファッションショーが無事に終わった次の日だった。
自分たちの中で最初に気付いたのは透真さんで、ファミレスに呼び出したミス・ミスターコンの実行委員二人、そして俺の前で頭を深々と下げた。
「本当にごめん」
真っ青な顔をした透真さんに「私たちもさっき見た」と実行委員の女の先輩が答え、何も事態が分からずに「ファッションショーで何か問題でもありました?」と聞いた自分に、もう一人の男の先輩が説明をしてくれる。
「いや、ファッションショーとは別問題……と言っていいのかはまだ分からないけど、西原くんが上半身裸で寝てる写真が拡散されてる」
「は?」
「一応、目のあたりはモザイクかけられてるけど、髪の毛とかそのままだし、知ってる人が見たら一発で特定できる感じで」
「……見てもいいっすか」
実行委員の人が差し出してきたスマホを見る前に透真さんに聞くと、無言の頷きが返ってくる。
改めてスマホに目を向けると、背景もぼやかされた中、ソファらしきところに寝転がる透真さんの白い上半身だけが鮮明に映っていた。鼻から下もモザイクがかかっていないし、成瀬役に向けて伸ばしている茶色い長い髪も乱れて広がっている。確かに透真さんのことを知っている人ならすぐに分かると思われた。
さらに、酒が入っていたのであろうグラスを持ちピースサインをしている爪の長い手がアップで映り込んでいるところに、何とも言えない悪意が感じられ、思わず眉根を寄せてしまう。
「なんすか、これ。こんなの透真さんがどう見ても被害者じゃないですか。なんで透真さんが謝る必要があるんですか」
「問題は」
さっき説明してくれた実行委員の人が俺に言い聞かせるようにゆっくりと言葉を紡ぐ。
「この画像をピンスタのストーリーに載せた人が、一緒に飲んでたら急に襲われそうになったけど、強い酒飲ませて撃退したっていうキャプションをつけてることで」
「はぁ!?」
「同性の後輩とカップルみたいに振舞ってたから安心してたのにひどい、みんなも騙されないようにとも書いてあった」
「でね、これが広まったせいで、西原くんのSNSはもちろんなんだけど、鷹野くんのSNSも少し荒れ始めていて」
あとを引き継ぐように女の先輩が話し出す。
「まあでも鷹野くんのほうは、失望したとかそういう言葉もあるけど、西原くんのカップル営業に付き合わされて可哀そうとか、そういう意見が多いかな。ただ、クイアベイティングじゃないか、っていう意見も一件だけだけど書かれてて」
「なんですか、そのクイアなんとかって」
「簡単に言えば、同性愛者やバイセクシャルじゃないのに、そう振舞って世間の注目を集めることを言うみたい。そういう意味では、私も二人に気軽にコンビ売りをしてくれって言ってしまって、申し訳なかったと思ってる。浅はかだったなって。今のところ、二人の投稿は仲のいい先輩後輩の範囲は越えてないし、ちゃんと最初の動画のときに、鷹野くんが西原くんの『好き』っていう言葉に対して、後輩としてって言ってくれてるし、大丈夫だとは思うんだけど」
「ただ、万が一クイアベイティングしてるってネットニュースにでもなったら、今回のイベント事態が中止となる可能性もあるかもしれない。もともと、ミスコンとかミスターコンとかって、セクシズムとかルッキズムとか、そういう面もあって、いろいろ慎重にならないといけないところもあるから、少しの間、このまま何も投稿とかしないで、動向を見守ったほうが……」
「じゃあ、透真さんの不名誉な噂はどうやって晴らすんですか」
俺の問いに、実行委員の二人が答える前に、透真さんが口を開いた。
「正直なところ、時間が経つのを待つしかないと思う。自分が何もしてないって、証明もできないしさ。逆に反論することでもっとこの問題が広まって、それこそイベントの中止につながっても申し訳ないし。あとは、俺がミスターコンを辞退して、SNSも消すか……」
「そんなことしたら、事実として認めたって思われかねないからダメでしょ」
「ってかさ」
透真さんが少しだけ笑う。
「ユウは、俺のことまったく疑わないんだ」
「当たり前じゃないですか!」
思わず語気荒く答えてしまう。
「ただ、なんでこんなことされたんすか。そんな恨み買うようなことしました?」
俺の問いに言い淀んだ透真さんに「この写真載せた子、石森くんが気に入ってた子でしょ? もしかして石森くんのために避けて恨まれたとか? 昨日の飲み会の最初、一緒に飲んでたけど途中で石森くんと場所変わってたよね」と実行委員が訊ねる。
「……イッシーのことも確かにちょっとはあるけど、そこまで大きな理由ではないと思う。と言っても、俺自身もなんでそこまで恨まれたのかは分かんないんだけど。正直なところ」
はあ、とため息をついて透真さんが説明をはじめる。
「最初から話すと、採寸の日に、ユウのことが気になるから、ファッションショーのあとの打ち上げで二人で話すチャンスを作ってほしいってあの子に言われたのよ。ユウは採寸の前は別の女の子たちに話しかけられてたし、帰りもすぐいなくなったから声をかけられなかったって言って」
「あそこのスーパー、夜8時に閉まるんで、焼きそばが……」
「いや、早く帰ったのは別にいいんだけどさ」
透真さんが苦笑する。
「ファッションショー当日も、終わったらすぐレコード店のセールに行くってのは前から聞いてたし、ユウは来ないと思うよって言ったんだけど、それでもどうにか誘ってくださいお願いしますって言うだけ言って帰られちゃって。でも、当日ユウがいなければ諦めるだろうと思ったのね」
そういえば昨日、ユウは大事な用事があるから先に着替えさせてやってと透真さんが他の人にも声をかけてくれていた。あれは、俺が呼び止められる前に帰れるよう、気を遣ってくれていたということだろう。
礼だけ言って、うきうきとレコード店に向かっていたのんきな自分の頭を小突きたくなる。
「そうしたら、飲み会が始まってからなんでユウを連れてこなかったんだってすごいしつこく言われて、あいつも用事があるからって言ったんだけど、私が会いたいって伝えてくれたの、とか聞いてきてさ。言わなかったって答えたら、信じられないってこっちが引くくらい怒っちゃったから、ごめんねって謝って、すぐにイッシーに声かけて席を代わってもらったわけ。でも、一次会が終わったときにその子にメモを渡されて、見てみたら、本当に悪いと思ってるなら、この後ここに来てくれって店の名前が書いてあって」
そこで無視すれば良かったんだけど、と透真さんは続けた。
「ミス・ミスターコンの実行委員同士が協力してファッションショーも成功させたところで、あんま揉めるのもよくないだろうって思ってとりあえず店に行ったら、バーみたいなとこの個室でその子が待っててさ。ユウを連れていかなかったうえに、イッシーを横にいかせたことで、誰でもいいんだろうと思われたみたいで傷ついたって言われたのよ。だからまた謝ったら、じゃあ、ここで自分とのツーショットを撮ってくれたら許すって言い出して。ユウのほうが意外性があって話題になると思ったけど、俺でもいいとか言われて、なんの話かと思ったら、自分のSNSにユウと二人で飲んでるところを載せたかったんだってさ。でも、俺らにとっては別にメリットないしイッシーと揉める原因になりそうだし断ったら、そのときはけっこうあっさり引き下がってくれたのよ。それで、いろいろ我儘言ってごめんなさい、迷惑をかけたからってお酒を頼んでくれて、こっちもちょっと悪いって思う気持ちもあったから断り切れなくて一口飲んだら、そっからマジで記憶がなくなって。相当強い酒だったのか、なんか薬盛られてたのか、分かんないけど」
「うわー、たち悪いな」
実行委員の男の先輩が顔をしかめるのに対し、透真さんは「しかもさ」と静かに言った。
「しばらくして、めちゃくちゃ乱暴に起こされて、目を覚ましたらシャツは脱げてるし、もちろんその女の子はいないし、何があったんだって思ってぼーっとしてたら、俺を起こしたバーの人にいくら酔ったからって女の子をこんなところで襲おうとするなんて最低だって言われて。びっくりだよな。なんか、襲われそうになったのをなだめてお酒を飲ませてたら寝てくれたから、今のうちに逃げるって言って帰っていったんだって」
個室だし、目撃者は誰もいないし、こういうとき男は弱いよなと諦めた口調で言う透真さんを見ているうちに、胸の中になんとも言えない怒りが湧いてくる。
「なんでわざわざそんなことしなきゃいけなかったんですかね。普通に頼んでくれれば写真くらいファッションショーの会場で撮ったって良かったし、しかも透真さんは何も悪いことしてないのに、ここまでする意味がマジで分かんないんすけど」
「SNSで注目されるってことが、人生のすべてみたいになってる人っているんだよ」
先輩の女子が重いため息をついてスマホを見せてくる。そこに映し出されていた透真さんを陥れた女子のSNSは、カラフルで明るくて楽しいこと綺麗なことだけで満ち溢れているようで、そんな世界で本人も満ち足りた笑顔を見せていた。それなのに、なんでわざわざこんな汚いことをしなければいけなかったのだろう。
心の中で抱いた疑問が聞こえたかのように、先輩が続ける。
「依存症みたいなもんだからさ、もっともっと注目されたいってなっていって、一つでも多くいいねをもらうためなら何でもやるようになっちゃう。だから、バズると踏んでた鷹野くんとのデートっぽいツーショを撮れないってなったらイライラが抑えられないし、それだったらと思った西原くんとのツーショも断られて、ぷつんってなったんだろうね。ツーショットで注目を集められないなら加害者に仕立て上げて、自分は被害者ぶって注目を浴びようってなったんだと思うよ」
「頭おかしいですね」
「おかしいのよ。じゃなかったこんなことしない。――とにかく今は、西原くんはSNSをできるだけ見ないでおいたほうがいいと思う。代わりに私たちのほうで見ておくから。あと、ミスターコンはまだ辞退する必要ないからね。どうしようもなくなったら、学生課に相談しようね」
「あと、静観したいっていうのは、もう一つ理由があってさ。全員が全員この子の投稿を信じてるわけじゃなくて、自作自演じゃないかって声も出てるんだよね。で、その中に、西原くんと鷹野くんが夕飯について話してる動画の中で、飲んだらすぐに寝るって言ってたのに、一緒に飲んでて襲うなんてことできないんじゃないかって意見もあって」
「あー……そんなこと話してましたっけ」
「そう。で、その意見に、今『いいね』が、けっこうつき始めてる。つまり、西原くんの味方がゼロってわけではないからもうちょっと動向を見たいわけ。もちろん、ここぞとばかりに被害者の味方ぶって正義を振りかざしたい人もいるから、どうしてもぱっと見で被害者になるところだった女の子をかばう声は大きくなるだろうけどね」
「分かった。SNSはしばらく見ないことにする。あと、ありがとう、二人とも俺のこと信用してくれて」
頭を下げた透真さんの顔色は、だいぶいつも通りに戻ってきていた。
「ユウも、ごめんな。俺が調子に乗ったせいで、嫌な思いさせて」
「透真さんに嫌な思いさせられたことなんて一回もないですよ」
そう言い切ると、ようやく笑顔になった透真さんが「やっぱユウっていいよな。好きだわ」と言う。
「俺も好きって言われるの好きなんで、どんどん言ってください」
俺の返事に「やっぱ、ゆーとま最高!」と先輩女子が笑った。