結局、「水仙の花束」の上演について決めるのは、数日保留にしてもらうことにした。
田ちゃんが、脚本を書いた朝田さんにも連絡をして話したのだが、俺の成瀬とユウの雨衣以外であの本を演るということが、二人ともすぐには割り切れないというのが理由だった。
「江古田さんがということではなくて、ただ、まだ上演したばかりで、私たちの中で成瀬と雨衣のイメージがあまりにも透真くんとユウくんになりすぎてしまっていて。すみません」
「まあ、あまりにもはまってたしな。気持ちはわかる。今週中に返事くれればいいから」
頭を下げる田ちゃんに、江古田さんは笑顔でそう答えてくれて、俺も申し訳ない気持ちで頭を下げた。
帰る江古田さんを部室の外まで見送ると「西原さ」と何気ない口調で言われた。
「ちゃんと鷹野と話したほうがいいと思う。お前が俺なら安心だって言ったとき、あいつショック受けた顔してたし」
「……でも、断ったのはあいつのほうなんで」
「ただやりたくないっていうだけじゃなくて、あいつなりに理由があるんだろ。それを聞き出せるのはお前だけだと思うけど」
「どうせ、これ以上、雨衣と重ねて見られるのが嫌なだけだと思いますよ。いまだにSNSではそういうコメントもありますし」
俺もユウも、SNSアカウントはそのまま残してある。前のように毎日更新はしていないが、新しい舞台の宣伝もかねて、たまに稽古の様子や普段の出来事などを載せている。
やはり「ゆーとま」を求めるコメントはいまだに来るし、きっとユウのほうにも来ているはずだ。
「なんか西原ってさ」
江古田さんが俺の顔をしげしげと見る。
「鷹野に対してだけ、ずいぶんキツイのな」
まあ、それだけ気を許してるってことか、と言われ、咄嗟にそんなことないです、と言いそうになり、いや、これではむしろ肯定しているようなものだ、と口を閉じる。
黙った俺を面白そうに見た江古田さんは「ま、がんばれ」と何に対してか分からない励ましをよこして帰っていった。
その後姿を気まずい思いで見送った俺は、小さくため息をついた。
やっぱり、朝田さんや田ちゃんの気持ちを思うと、ユウとはちゃんと話したほうがいいのだろう。
自分と演じることを否定されるためにわざわざ声をかけるとか、なかなかの自虐行為だなと思いつつ稽古場にノロノロと戻ると、ユウはいなかった。
近くにいた二年生に聞くと、体調が悪いと言って帰ったと教えられる。
「顔色悪かったですしね。疲れも溜まってるのかも」
本当に体調が悪いのか、それとも俺と話したくないだけなのか、どっちだろう。
なんにせよ、今日は話せないと言うことにほっとして、すぐにユウの体調が悪いかもしれないのに良かったと思ってしまう自分にうんざりした俺は、またため息をついた。
街頭や店のネオンの灯りで、夜道に何重にも重なって伸びている自分の影を見ながら、何度目か分からないため息をつく。
あれから冷静になってみれば、ユウの態度に動揺して当てつけのようにすぐに話を進めようとしたことが、結果、江古田さんに対してはもちろん、あの舞台を作り上げてくれた朝田さんや田ちゃんをはじめとする部員たちに対しても失礼になってしまっていたことに気付いた。
「水仙の花束」は、俺とユウだけのものじゃない。演劇部の仲間とともに作り上げたもので、俺たちはあくまでもその一端を担ったにすぎない。それなのにあんな風に、周りの意見も聞かずに受けようとするなんて、どうかしていた。
さらに言えば、ユウの気持ちだってもっと汲むべきだった。
江古田さんにも言ったとおり、いつまでも雨衣として見られることへの拒否がきっとあるのだろうと思う。もちろん、俺との仲を邪推するような声にうんざりしているということも考えられるが、それに加えて、雨衣のイメージがつきすぎてしまうことを心配していることも考えられた。ユウはまだこれからも舞台に立つ機会が多い。今回の雨衣がはまり役だっただけに、次の役の妨げになる可能性もないとはいえないからだ。
――あとは、誰かのためにってことも考えられるかもな
例えば、ユウが誰かと付き合い始めた、とか。
演劇なんだからと、そこを割り切れる人もいるけれど、ユウはもし彼女が嫌がったら彼女の気持ちを優先するだろう。そういう男だ。プロではないのだし、そこを責めることはできない。
責めることはできないけど、自分が部内の調和などくそくらえと投げ出して、もう二度とユウと口を聞かない未来が容易に想像できて、そんな自分に苦笑する。
もう何年も、自分の感情を理性より優先させるなんてことはなかったように思う。江古田さんにも指摘されたけど、誰かに対して不機嫌さを顕わにするなんてこともなかった。
それなのに、ユウが関わると、コントロールできない自分が現れる。
これが恋というものがなせる業なのだとすれば、間違いなく、俺は初恋の真っただ中にいるのだろう。
暇さえあれば、ユウの笑っている顔だとか、稽古中の真剣な顔だとか、ユウに触れられたあの夜のことだとか、舞台の上で手にキスをされたときの感触だとか、飽きることなく、ユウのことばかりを考えている俺は。
どういう言動をすれば完璧な彼氏になれるのかを考えて付き合っていた頃は、彼女のことより、自分がその日うまくやれたかどうかばかり気にしていたのに、と思う。本当に、ナルキッソスのことを笑えないくらいには、自分のことばかりだった。
「だいたい、あいつが無駄にドラマチックなのがいけないんだよな」
小さい声で八つ当たりをして、ジャケットのポケットに手を入れて鍵を出しながら、アパートの階段を上る。
本物のマイペース人間だと思って油断していたら、びっくりするようなことをして、こっちの心臓をぶち抜いてきて。そんなの、ドラマチックな恋愛に憧れていた自分に刺さらないわけがない。
……ほら、今だって。
俺は立ち止まり、コートのポケットに手を突っ込み、部屋のドアに寄りかかっているユウと見つめ合った。
こんなことをしてくるから。
俺はどうしようもなく、また好きになってしまうのだ。
*
俺を見つけたユウは、ドアから背を離し「お帰りなさい」と言った。
「……何してんの、ここで」
「待ってました」
「何のために」
「透真さんと話すためです」
その表情は落ち着いていて、見る限り具合は悪くはなさそうだった。
ユウのそばに何でもない顔で近づき、鍵を回しドアを開けて「入れば」と言うと、ユウは「いえ」と静かに答えた。
「ここでいいです」
「俺が寒いから中に入ってって」
「一分だけ、我慢してもらえませんか」
「いやだ。中に入ってきたら聞く」
ユウの言うことを素直に聞くのが癪で、家の中に入ってドアを閉める。そのまま真っ暗な玄関で待つが、ドアを開けて入って来る気配はなく、もしや帰ってしまったんだろうかと不安になってそっとのぞき穴から外を見ると、突っ立っているユウの姿が見えた。
「……マジで入ってこないなら、あと十秒で鍵かけるけど」
ドア越しに声をかけると「透真さん」と返事が来る。
「すみません。言いたいことだけ言って帰るのでそのまま聞いてください。『水仙の花束』、上演をやめてもらうことはできませんか。勝手だとは思いますけど、他の人に雨衣を演じられたら、俺らの舞台が上書きされてしまうみたいで、嫌なんです」
「なんだよそれ。じゃあ、ユウがすればいいじゃん」
「それもできません。これ以上雨衣を演じるのは、俺、精神的に耐えられないと思うので」
淡々と言われ、それだけ負担だったのかとまた哀しい気持ちになると同時に、ユウの言葉の理不尽さに腹が立ってくる。
「精神的に耐えられないほどの役に、ユウがこだわる意味が分かんないんだけど。他の人にしてもらえば、ユウは雨衣のイメージから逃れられるだろ。それとも話題になった舞台の主演をしたっていう事実だけは、自分のものにしておきたいってことかよ」
「違います。そうじゃなくて、だから」
ぎしっとドアがきしむ音がした。外から寄りかかっているのかもしれない。
「俺は、透真さんのことが好きなので」
あまりにもあっさりと告げられたその言葉に、ん?となっている間にもユウは話し続けた。
「青竜祭が終わってからずっと、気持ちを抑えようと頑張ってるのに、また雨衣をやったら、我慢できなくなるのが分かってるから、嫌なんです」
気持ちを抑えようと、頑張っている?俺じゃなくて、ユウが?
「透真さんは、演技のために割り切って、俺にあんなことまでさせてくれて、だから俺も割り切らないとって、そう思ってましたけど、無理なんです。辛いんです。透真さんを見てるだけでも。こんなんで雨衣なんて、絶対にできない」
ユウの言ったことがようやく自分の中に染みこんでくるが、あまりにも信じられない展開に、もしかしたら自分に都合のいいようにすべて変換しているのでは、という気すらしてくる。
「……俺のこと、好きなの?」
違うと言われたらどうしようと、恐怖すら覚えながら、冷たいドアに手を当てておそるおそる訊ねる。
「好きです。……ごめんなさい。好きです」
ドア越しに再度聞こえてきた告白の言葉に、ようやく現実だと理解し、胸が高鳴り始める。
しかし、同時にその声があまりにも悲しそうで、そんなつもりはなかったのに、結果として部屋から締め出してしまっていることに気持ちが焦り出す。慌ててドアを開けようとしても、向こうからしっかり押さえられていてびくともしない。
「ユウ、どいて。ドア開けさせて。ちょっとやっぱ中で話そう」
「いいです。気を遣わせてすみません。ただ俺、雨衣を嫌がってたって思われるのだけは避けたくて。俺にとって、『水仙の花束』は本当に大事で特別な演目なので。だからって、透真さんの相手は、俺だけのままがいいなんて言うのは、勝手だとは分かっています。でも――」
「ユウ、聞いて」
開かないドアに手を当てたまま、俺は続ける。
「俺も、ユウのことが好きだよ」
「……分かってます」
分かってるならなんで、と歯がゆく思っていると、ユウが沈んだ声で言う。
「でも、透真さんがいつも言ってくれる好きと、俺の好きは、違うんです」
「いや、違わないっていうか、今俺が言ってる好きっていうのは、いつもの好きとは違って、だからユウの好きと今の俺が言ってる好きは同じで」
言っているうちに自分でも混乱してきた俺は息を吐き「ちゃんと聞いて」とドア越しにもう一度話しかける。
「俺が今回の上演を受けたいと思ったのは、こんなことでもないとユウと触れ合うことなんて二度とできないだろうし、舞台上だけでもいいからまた愛されたいって、そう思ったからで。だから、今日ユウにやりたくないって言われて、正直、すごくつらかった。俺も、ユウのことが好きだから」
ドアの向こうに沈黙が落ちる。
伝わっただろうかとドアに額を押し当てながらユウの言葉を待つ。耳の奥で心臓の音が鳴り響く。ドアに触れている手がかすかに震える。
「それは」
掠れたような声がした。
「それは、透真さんも俺に恋愛感情を持ってるってことですか」
「そうだよ。だからドア開けさせて」
「……ドアを開けさせるための、罠とかではないですか」
「七匹の子ヤギかよ」
つい笑ってしまうと、急にドアが外から開かれた。
月明かりを背に立つその顔がよく見えないなと思った次の瞬間、玄関に入ってきたユウに強く抱きしめられる。寄せられた頬から冷たい雫が自分の頬へ伝ってきて、ユウが泣いていたのだと知り、切なくて愛しくて胸がはち切れそうになりながらその冷えた身体を抱きしめ返す。
ユウの後ろでドアがカチャリと閉まり、部屋が暗くなるのと同時に、俺たちはどちらからともなく、互いの唇を寄せ合った。
この前、表面を一瞬触れ合っただけで終わったキスは、今日は離れるタイミングを見失ったかのようにいつまでも終わらなかった。
*
翌朝、布団の中で二人でダラダラとしているとき、俺はユウの足に自分の足を絡めつつ一番聞きたかったことを口にした。
「ユウはさ、いつから俺のこと好きだったん?」
「いつからかなぁ」
ユウが俺の髪の毛を指で梳きながら言う。
「あぁ、合宿のときに透真さんを追いかけて、ハグしたことあったでしょ。あのとき、透真さんが笑ってそれが俺に伝わって、あー、この人にはずっと笑っててほしいなって思ったのが、最初に意識したときかも」
「へー」
「で、そのあとに江古田さんが来て、透真さんを信じてることをみんなの前でアピールしたことで、部内の空気も変わって、なんかそれが口惜しくて。透真さんを助けられるのは江古田さんじゃなくて俺じゃないの、みたいな」
「もしかして、問題の動画撮影もそれがきっかけだったりすんの?」
俺の言葉に、ユウが苦笑する。
「まあ、きっかけかもしんないですね。もともと、俺がSNSでアピールするのが一番効果あるだろうって漠然と思ってたんです。そしたらあのとき、江古田さんが自分のSNS使って発信してもいい、みたいなこと言ってたんで、いや、それをやるなら俺だろうって」
「確かにユウがやってくれて大正解だったもんな」
「俺としてはその後のやらかしがあるので何とも言えないけど……」
「でもさ、そのやらかしも、俺のこと好きだったから、やっちゃったってことだろ?」
ニヤニヤしながら聞くと、ユウはとんでもない、という顔をして首を横に振った。
「今となってはそうかも、と思うけど、あの時点では自覚してなかったから、正直自分にびっくりしたし、透真さんのこと、そういう目でしか見れなくなったらどうしようって思って気まずかった」
「の割に、合宿のあと、俺のことめっちゃ誘ってたじゃん。ゆーとまのためとか言って」
「ゆーとまのためっていうのも事実でしたけど、たくさん会って透真さんに慣れておくことで、稽古で変に意識しないようにしたかったっていうのも正直ありますね」
「ふーん」
「でも、会ってたら今度は俺に気を許してくれるようになった透真さんが可愛いなと思うようになって。まあそのときは微笑ましく思ってたくらいですけど」
「うざいと思わなかったんだ」
「うざくなるようなこと言ってなかったと思うけどな」
あの俺のウザ絡みをなんとも思わず受け入れられる器の広さはさすがである。もうユウが空洞であるとは思ってないけど、なんでも入る四次元ポケット的なものではあるかもしれない。
「でも、色気にその気になるんじゃって言われて動揺したあとに、分かりやすく透真さんから垣根の話をされて牽制されたのにショックを受けて、ようやく、自分の気持ちが恋愛感情だって自覚したんですよね。だけど、りんちゃんとうまくいってほしいってさらに透真さんが言うもんだから、自覚したとたんに脈なしだって突きつけられて、あの頃の俺、ちょっとメンタルやばかったです」
「そういや、りんちゃんとは、全然何もなし?」
「ないですよ。りんちゃん、社会人の彼氏いるし。俺のマイペースっぷりが弟に似てて世話したくなるとは言われてましたけど」
言われてみれば、りんちゃんのユウに対する接し方はそういう感じだったかもしれない。
「そっか、じゃありんちゃんのこと持ち出したのは申し訳なかったな……でも、言い訳をさせてもらえば、俺にはあんときのユウが、俺にその気になるって言われたことをすごく嫌がったように見えたのよ。SNSでもけっこう際どいこと言われたりしてたからさすがに拒否感が出てきたかなって。で、あの頃は自分でもユウに依存してるって自覚もあったから、俺は俺でこれ以上嫌がられる前に離れようとしたというか」
「そのときはもう俺のこと好きだったってこと?」
ユウが顔をのぞきこんできて、可愛いなと思いながら俺は笑う。
「たぶんね。でも自覚したのは、ユウとここで話したとき。動画のあとの話を聞いて、なんでそんなことしたのって聞いたら、童貞の好奇心だって言われて、すんごいがっかりしてさ。俺のこと好きだからって言われるのを、期待してたんだなって気付いて」
「でもあんとき、俺がトイレから出てきたら、何てことない時間でした、みたいな顔してたじゃん」
「そりゃそうだろ、あくまでも後輩の好奇心を満足させるっていう体だったんだから」
はぁっと大きくため息をついたゆうが、俺の首の下に自分の右腕を通し、密着してくる。
「あんとき、変に意地を張らなければ良かったな。ほんとこの二か月、つらかった」
「俺も」
シャツ越しに感じる暖かさに顔を寄せ、襟元からのぞく鎖骨の下あたりにキスをすると「朝から童貞をあんま煽んないでほしい……」とユウが言う。
「いや、あそこまでしておいて童貞って言うのは図々しいんじゃないの」
昨晩、お互いの吐息を奪い合うようにしながら擦りつけられたものの硬さを思い返しながら言うと「童貞です」とユウが言い張る。
「ふーん」
「それに、俺、透真さんの身体が一番大事なんで、一生童貞でも全然大丈夫だと思ってます。昨日の夜くらいのことができれば」
「ふーん」
「え、ダメ、ですか」
「ユウって早生まれだよね。誕生日いつだっけ」
「再来月です。二月四日」
「二十歳になるんだ」
「そうです」
「じゃ、そんとき童貞も卒業しような。俺も頑張る」
目を見開いたユウが左手でその両目を押さえて「だから煽らないでってば……」と嘆き、俺は声を出して笑った。
*
【『水仙の花束』を観に、劇場まで足を運んでくださった皆様、ありがとうございました。無事に千秋楽も終えて一息ついたので、ゆーとまでお疲れ様旅行に来てます。って言っても、これを載せるのはたぶん明後日くらいなので、その頃には旅行も終わっていますが。ちなみに今日は二月五日でーす】
スマホのインカメで自撮りをしている男は、少し長めの茶色い髪を風になびかせていた。その横にひょこっと黒髪の短髪の男が顔をのぞかせ、手を振る。
【そして皆さん、実はこのユウくん、これまでのユウくんと一味違います】
【ちょ、何言うの】
ちょっと焦ったような顔に構わず、スマホを持っている男が【ユウは、昨日二十歳になりましたー! おめでとうございまーす!】とテンション高く言う。
【これで酒も飲み放題だね】
【いや、反面教師がそばにいるので、そこそこに楽しみたいと思います】
【ひど】
そう言いながらも笑った男が【で、今回の旅行では、せっかくなので水仙を見にきてみました】とカメラをインカメから切り替え、群生する水仙の花々を映す。
濃い緑の葉に、白と黄色の明るく可憐な色が映え、春が間もなく来ることを感じさせてくれる。
【ほんと、改めて見てみても、毒があるとは思えない可愛らしくて綺麗な花ですよね。あと、この寒空の中で張り切って咲いてるあたりに、成瀬の内面のたくましさと共通するものを勝手に感じました】
【確かにそうかもね】
隣で一緒に観ているのであろう男が答え、カメラがそちらに向く。
【雨衣から見てどう? 成瀬と水仙どっちが綺麗ですか?】
【何、その質問】
くくっと笑った黒髪の男の首に銀色の細いチェーンが光る。
【まあ雨衣として答えるなら、それは成瀬だと思うけど】
【じゃあ、ユウから見て俺と水仙どっちが綺麗ですか?】
【それは透真さんですね】
黒髪の男が優しい笑顔をカメラに向ける。
【完璧な答えですねー】
笑いながらまたインカメに切り替えた男が【ということで、また機会があれば動画も載せたいと思います。ゆーとまでした】と手を振る。
最後に、黒髪の男と同じような銀色の細いチェーンを着けている首元が一瞬映り、動画は終了した。
動画のバックで流れていた曲は、「All the things YOU ARE」だった。
End
田ちゃんが、脚本を書いた朝田さんにも連絡をして話したのだが、俺の成瀬とユウの雨衣以外であの本を演るということが、二人ともすぐには割り切れないというのが理由だった。
「江古田さんがということではなくて、ただ、まだ上演したばかりで、私たちの中で成瀬と雨衣のイメージがあまりにも透真くんとユウくんになりすぎてしまっていて。すみません」
「まあ、あまりにもはまってたしな。気持ちはわかる。今週中に返事くれればいいから」
頭を下げる田ちゃんに、江古田さんは笑顔でそう答えてくれて、俺も申し訳ない気持ちで頭を下げた。
帰る江古田さんを部室の外まで見送ると「西原さ」と何気ない口調で言われた。
「ちゃんと鷹野と話したほうがいいと思う。お前が俺なら安心だって言ったとき、あいつショック受けた顔してたし」
「……でも、断ったのはあいつのほうなんで」
「ただやりたくないっていうだけじゃなくて、あいつなりに理由があるんだろ。それを聞き出せるのはお前だけだと思うけど」
「どうせ、これ以上、雨衣と重ねて見られるのが嫌なだけだと思いますよ。いまだにSNSではそういうコメントもありますし」
俺もユウも、SNSアカウントはそのまま残してある。前のように毎日更新はしていないが、新しい舞台の宣伝もかねて、たまに稽古の様子や普段の出来事などを載せている。
やはり「ゆーとま」を求めるコメントはいまだに来るし、きっとユウのほうにも来ているはずだ。
「なんか西原ってさ」
江古田さんが俺の顔をしげしげと見る。
「鷹野に対してだけ、ずいぶんキツイのな」
まあ、それだけ気を許してるってことか、と言われ、咄嗟にそんなことないです、と言いそうになり、いや、これではむしろ肯定しているようなものだ、と口を閉じる。
黙った俺を面白そうに見た江古田さんは「ま、がんばれ」と何に対してか分からない励ましをよこして帰っていった。
その後姿を気まずい思いで見送った俺は、小さくため息をついた。
やっぱり、朝田さんや田ちゃんの気持ちを思うと、ユウとはちゃんと話したほうがいいのだろう。
自分と演じることを否定されるためにわざわざ声をかけるとか、なかなかの自虐行為だなと思いつつ稽古場にノロノロと戻ると、ユウはいなかった。
近くにいた二年生に聞くと、体調が悪いと言って帰ったと教えられる。
「顔色悪かったですしね。疲れも溜まってるのかも」
本当に体調が悪いのか、それとも俺と話したくないだけなのか、どっちだろう。
なんにせよ、今日は話せないと言うことにほっとして、すぐにユウの体調が悪いかもしれないのに良かったと思ってしまう自分にうんざりした俺は、またため息をついた。
街頭や店のネオンの灯りで、夜道に何重にも重なって伸びている自分の影を見ながら、何度目か分からないため息をつく。
あれから冷静になってみれば、ユウの態度に動揺して当てつけのようにすぐに話を進めようとしたことが、結果、江古田さんに対してはもちろん、あの舞台を作り上げてくれた朝田さんや田ちゃんをはじめとする部員たちに対しても失礼になってしまっていたことに気付いた。
「水仙の花束」は、俺とユウだけのものじゃない。演劇部の仲間とともに作り上げたもので、俺たちはあくまでもその一端を担ったにすぎない。それなのにあんな風に、周りの意見も聞かずに受けようとするなんて、どうかしていた。
さらに言えば、ユウの気持ちだってもっと汲むべきだった。
江古田さんにも言ったとおり、いつまでも雨衣として見られることへの拒否がきっとあるのだろうと思う。もちろん、俺との仲を邪推するような声にうんざりしているということも考えられるが、それに加えて、雨衣のイメージがつきすぎてしまうことを心配していることも考えられた。ユウはまだこれからも舞台に立つ機会が多い。今回の雨衣がはまり役だっただけに、次の役の妨げになる可能性もないとはいえないからだ。
――あとは、誰かのためにってことも考えられるかもな
例えば、ユウが誰かと付き合い始めた、とか。
演劇なんだからと、そこを割り切れる人もいるけれど、ユウはもし彼女が嫌がったら彼女の気持ちを優先するだろう。そういう男だ。プロではないのだし、そこを責めることはできない。
責めることはできないけど、自分が部内の調和などくそくらえと投げ出して、もう二度とユウと口を聞かない未来が容易に想像できて、そんな自分に苦笑する。
もう何年も、自分の感情を理性より優先させるなんてことはなかったように思う。江古田さんにも指摘されたけど、誰かに対して不機嫌さを顕わにするなんてこともなかった。
それなのに、ユウが関わると、コントロールできない自分が現れる。
これが恋というものがなせる業なのだとすれば、間違いなく、俺は初恋の真っただ中にいるのだろう。
暇さえあれば、ユウの笑っている顔だとか、稽古中の真剣な顔だとか、ユウに触れられたあの夜のことだとか、舞台の上で手にキスをされたときの感触だとか、飽きることなく、ユウのことばかりを考えている俺は。
どういう言動をすれば完璧な彼氏になれるのかを考えて付き合っていた頃は、彼女のことより、自分がその日うまくやれたかどうかばかり気にしていたのに、と思う。本当に、ナルキッソスのことを笑えないくらいには、自分のことばかりだった。
「だいたい、あいつが無駄にドラマチックなのがいけないんだよな」
小さい声で八つ当たりをして、ジャケットのポケットに手を入れて鍵を出しながら、アパートの階段を上る。
本物のマイペース人間だと思って油断していたら、びっくりするようなことをして、こっちの心臓をぶち抜いてきて。そんなの、ドラマチックな恋愛に憧れていた自分に刺さらないわけがない。
……ほら、今だって。
俺は立ち止まり、コートのポケットに手を突っ込み、部屋のドアに寄りかかっているユウと見つめ合った。
こんなことをしてくるから。
俺はどうしようもなく、また好きになってしまうのだ。
*
俺を見つけたユウは、ドアから背を離し「お帰りなさい」と言った。
「……何してんの、ここで」
「待ってました」
「何のために」
「透真さんと話すためです」
その表情は落ち着いていて、見る限り具合は悪くはなさそうだった。
ユウのそばに何でもない顔で近づき、鍵を回しドアを開けて「入れば」と言うと、ユウは「いえ」と静かに答えた。
「ここでいいです」
「俺が寒いから中に入ってって」
「一分だけ、我慢してもらえませんか」
「いやだ。中に入ってきたら聞く」
ユウの言うことを素直に聞くのが癪で、家の中に入ってドアを閉める。そのまま真っ暗な玄関で待つが、ドアを開けて入って来る気配はなく、もしや帰ってしまったんだろうかと不安になってそっとのぞき穴から外を見ると、突っ立っているユウの姿が見えた。
「……マジで入ってこないなら、あと十秒で鍵かけるけど」
ドア越しに声をかけると「透真さん」と返事が来る。
「すみません。言いたいことだけ言って帰るのでそのまま聞いてください。『水仙の花束』、上演をやめてもらうことはできませんか。勝手だとは思いますけど、他の人に雨衣を演じられたら、俺らの舞台が上書きされてしまうみたいで、嫌なんです」
「なんだよそれ。じゃあ、ユウがすればいいじゃん」
「それもできません。これ以上雨衣を演じるのは、俺、精神的に耐えられないと思うので」
淡々と言われ、それだけ負担だったのかとまた哀しい気持ちになると同時に、ユウの言葉の理不尽さに腹が立ってくる。
「精神的に耐えられないほどの役に、ユウがこだわる意味が分かんないんだけど。他の人にしてもらえば、ユウは雨衣のイメージから逃れられるだろ。それとも話題になった舞台の主演をしたっていう事実だけは、自分のものにしておきたいってことかよ」
「違います。そうじゃなくて、だから」
ぎしっとドアがきしむ音がした。外から寄りかかっているのかもしれない。
「俺は、透真さんのことが好きなので」
あまりにもあっさりと告げられたその言葉に、ん?となっている間にもユウは話し続けた。
「青竜祭が終わってからずっと、気持ちを抑えようと頑張ってるのに、また雨衣をやったら、我慢できなくなるのが分かってるから、嫌なんです」
気持ちを抑えようと、頑張っている?俺じゃなくて、ユウが?
「透真さんは、演技のために割り切って、俺にあんなことまでさせてくれて、だから俺も割り切らないとって、そう思ってましたけど、無理なんです。辛いんです。透真さんを見てるだけでも。こんなんで雨衣なんて、絶対にできない」
ユウの言ったことがようやく自分の中に染みこんでくるが、あまりにも信じられない展開に、もしかしたら自分に都合のいいようにすべて変換しているのでは、という気すらしてくる。
「……俺のこと、好きなの?」
違うと言われたらどうしようと、恐怖すら覚えながら、冷たいドアに手を当てておそるおそる訊ねる。
「好きです。……ごめんなさい。好きです」
ドア越しに再度聞こえてきた告白の言葉に、ようやく現実だと理解し、胸が高鳴り始める。
しかし、同時にその声があまりにも悲しそうで、そんなつもりはなかったのに、結果として部屋から締め出してしまっていることに気持ちが焦り出す。慌ててドアを開けようとしても、向こうからしっかり押さえられていてびくともしない。
「ユウ、どいて。ドア開けさせて。ちょっとやっぱ中で話そう」
「いいです。気を遣わせてすみません。ただ俺、雨衣を嫌がってたって思われるのだけは避けたくて。俺にとって、『水仙の花束』は本当に大事で特別な演目なので。だからって、透真さんの相手は、俺だけのままがいいなんて言うのは、勝手だとは分かっています。でも――」
「ユウ、聞いて」
開かないドアに手を当てたまま、俺は続ける。
「俺も、ユウのことが好きだよ」
「……分かってます」
分かってるならなんで、と歯がゆく思っていると、ユウが沈んだ声で言う。
「でも、透真さんがいつも言ってくれる好きと、俺の好きは、違うんです」
「いや、違わないっていうか、今俺が言ってる好きっていうのは、いつもの好きとは違って、だからユウの好きと今の俺が言ってる好きは同じで」
言っているうちに自分でも混乱してきた俺は息を吐き「ちゃんと聞いて」とドア越しにもう一度話しかける。
「俺が今回の上演を受けたいと思ったのは、こんなことでもないとユウと触れ合うことなんて二度とできないだろうし、舞台上だけでもいいからまた愛されたいって、そう思ったからで。だから、今日ユウにやりたくないって言われて、正直、すごくつらかった。俺も、ユウのことが好きだから」
ドアの向こうに沈黙が落ちる。
伝わっただろうかとドアに額を押し当てながらユウの言葉を待つ。耳の奥で心臓の音が鳴り響く。ドアに触れている手がかすかに震える。
「それは」
掠れたような声がした。
「それは、透真さんも俺に恋愛感情を持ってるってことですか」
「そうだよ。だからドア開けさせて」
「……ドアを開けさせるための、罠とかではないですか」
「七匹の子ヤギかよ」
つい笑ってしまうと、急にドアが外から開かれた。
月明かりを背に立つその顔がよく見えないなと思った次の瞬間、玄関に入ってきたユウに強く抱きしめられる。寄せられた頬から冷たい雫が自分の頬へ伝ってきて、ユウが泣いていたのだと知り、切なくて愛しくて胸がはち切れそうになりながらその冷えた身体を抱きしめ返す。
ユウの後ろでドアがカチャリと閉まり、部屋が暗くなるのと同時に、俺たちはどちらからともなく、互いの唇を寄せ合った。
この前、表面を一瞬触れ合っただけで終わったキスは、今日は離れるタイミングを見失ったかのようにいつまでも終わらなかった。
*
翌朝、布団の中で二人でダラダラとしているとき、俺はユウの足に自分の足を絡めつつ一番聞きたかったことを口にした。
「ユウはさ、いつから俺のこと好きだったん?」
「いつからかなぁ」
ユウが俺の髪の毛を指で梳きながら言う。
「あぁ、合宿のときに透真さんを追いかけて、ハグしたことあったでしょ。あのとき、透真さんが笑ってそれが俺に伝わって、あー、この人にはずっと笑っててほしいなって思ったのが、最初に意識したときかも」
「へー」
「で、そのあとに江古田さんが来て、透真さんを信じてることをみんなの前でアピールしたことで、部内の空気も変わって、なんかそれが口惜しくて。透真さんを助けられるのは江古田さんじゃなくて俺じゃないの、みたいな」
「もしかして、問題の動画撮影もそれがきっかけだったりすんの?」
俺の言葉に、ユウが苦笑する。
「まあ、きっかけかもしんないですね。もともと、俺がSNSでアピールするのが一番効果あるだろうって漠然と思ってたんです。そしたらあのとき、江古田さんが自分のSNS使って発信してもいい、みたいなこと言ってたんで、いや、それをやるなら俺だろうって」
「確かにユウがやってくれて大正解だったもんな」
「俺としてはその後のやらかしがあるので何とも言えないけど……」
「でもさ、そのやらかしも、俺のこと好きだったから、やっちゃったってことだろ?」
ニヤニヤしながら聞くと、ユウはとんでもない、という顔をして首を横に振った。
「今となってはそうかも、と思うけど、あの時点では自覚してなかったから、正直自分にびっくりしたし、透真さんのこと、そういう目でしか見れなくなったらどうしようって思って気まずかった」
「の割に、合宿のあと、俺のことめっちゃ誘ってたじゃん。ゆーとまのためとか言って」
「ゆーとまのためっていうのも事実でしたけど、たくさん会って透真さんに慣れておくことで、稽古で変に意識しないようにしたかったっていうのも正直ありますね」
「ふーん」
「でも、会ってたら今度は俺に気を許してくれるようになった透真さんが可愛いなと思うようになって。まあそのときは微笑ましく思ってたくらいですけど」
「うざいと思わなかったんだ」
「うざくなるようなこと言ってなかったと思うけどな」
あの俺のウザ絡みをなんとも思わず受け入れられる器の広さはさすがである。もうユウが空洞であるとは思ってないけど、なんでも入る四次元ポケット的なものではあるかもしれない。
「でも、色気にその気になるんじゃって言われて動揺したあとに、分かりやすく透真さんから垣根の話をされて牽制されたのにショックを受けて、ようやく、自分の気持ちが恋愛感情だって自覚したんですよね。だけど、りんちゃんとうまくいってほしいってさらに透真さんが言うもんだから、自覚したとたんに脈なしだって突きつけられて、あの頃の俺、ちょっとメンタルやばかったです」
「そういや、りんちゃんとは、全然何もなし?」
「ないですよ。りんちゃん、社会人の彼氏いるし。俺のマイペースっぷりが弟に似てて世話したくなるとは言われてましたけど」
言われてみれば、りんちゃんのユウに対する接し方はそういう感じだったかもしれない。
「そっか、じゃありんちゃんのこと持ち出したのは申し訳なかったな……でも、言い訳をさせてもらえば、俺にはあんときのユウが、俺にその気になるって言われたことをすごく嫌がったように見えたのよ。SNSでもけっこう際どいこと言われたりしてたからさすがに拒否感が出てきたかなって。で、あの頃は自分でもユウに依存してるって自覚もあったから、俺は俺でこれ以上嫌がられる前に離れようとしたというか」
「そのときはもう俺のこと好きだったってこと?」
ユウが顔をのぞきこんできて、可愛いなと思いながら俺は笑う。
「たぶんね。でも自覚したのは、ユウとここで話したとき。動画のあとの話を聞いて、なんでそんなことしたのって聞いたら、童貞の好奇心だって言われて、すんごいがっかりしてさ。俺のこと好きだからって言われるのを、期待してたんだなって気付いて」
「でもあんとき、俺がトイレから出てきたら、何てことない時間でした、みたいな顔してたじゃん」
「そりゃそうだろ、あくまでも後輩の好奇心を満足させるっていう体だったんだから」
はぁっと大きくため息をついたゆうが、俺の首の下に自分の右腕を通し、密着してくる。
「あんとき、変に意地を張らなければ良かったな。ほんとこの二か月、つらかった」
「俺も」
シャツ越しに感じる暖かさに顔を寄せ、襟元からのぞく鎖骨の下あたりにキスをすると「朝から童貞をあんま煽んないでほしい……」とユウが言う。
「いや、あそこまでしておいて童貞って言うのは図々しいんじゃないの」
昨晩、お互いの吐息を奪い合うようにしながら擦りつけられたものの硬さを思い返しながら言うと「童貞です」とユウが言い張る。
「ふーん」
「それに、俺、透真さんの身体が一番大事なんで、一生童貞でも全然大丈夫だと思ってます。昨日の夜くらいのことができれば」
「ふーん」
「え、ダメ、ですか」
「ユウって早生まれだよね。誕生日いつだっけ」
「再来月です。二月四日」
「二十歳になるんだ」
「そうです」
「じゃ、そんとき童貞も卒業しような。俺も頑張る」
目を見開いたユウが左手でその両目を押さえて「だから煽らないでってば……」と嘆き、俺は声を出して笑った。
*
【『水仙の花束』を観に、劇場まで足を運んでくださった皆様、ありがとうございました。無事に千秋楽も終えて一息ついたので、ゆーとまでお疲れ様旅行に来てます。って言っても、これを載せるのはたぶん明後日くらいなので、その頃には旅行も終わっていますが。ちなみに今日は二月五日でーす】
スマホのインカメで自撮りをしている男は、少し長めの茶色い髪を風になびかせていた。その横にひょこっと黒髪の短髪の男が顔をのぞかせ、手を振る。
【そして皆さん、実はこのユウくん、これまでのユウくんと一味違います】
【ちょ、何言うの】
ちょっと焦ったような顔に構わず、スマホを持っている男が【ユウは、昨日二十歳になりましたー! おめでとうございまーす!】とテンション高く言う。
【これで酒も飲み放題だね】
【いや、反面教師がそばにいるので、そこそこに楽しみたいと思います】
【ひど】
そう言いながらも笑った男が【で、今回の旅行では、せっかくなので水仙を見にきてみました】とカメラをインカメから切り替え、群生する水仙の花々を映す。
濃い緑の葉に、白と黄色の明るく可憐な色が映え、春が間もなく来ることを感じさせてくれる。
【ほんと、改めて見てみても、毒があるとは思えない可愛らしくて綺麗な花ですよね。あと、この寒空の中で張り切って咲いてるあたりに、成瀬の内面のたくましさと共通するものを勝手に感じました】
【確かにそうかもね】
隣で一緒に観ているのであろう男が答え、カメラがそちらに向く。
【雨衣から見てどう? 成瀬と水仙どっちが綺麗ですか?】
【何、その質問】
くくっと笑った黒髪の男の首に銀色の細いチェーンが光る。
【まあ雨衣として答えるなら、それは成瀬だと思うけど】
【じゃあ、ユウから見て俺と水仙どっちが綺麗ですか?】
【それは透真さんですね】
黒髪の男が優しい笑顔をカメラに向ける。
【完璧な答えですねー】
笑いながらまたインカメに切り替えた男が【ということで、また機会があれば動画も載せたいと思います。ゆーとまでした】と手を振る。
最後に、黒髪の男と同じような銀色の細いチェーンを着けている首元が一瞬映り、動画は終了した。
動画のバックで流れていた曲は、「All the things YOU ARE」だった。
End



