「ヘボイと二人で出かけてたってほんと? クラスの子が見たってさ。まさかつきあってないよね」
 わたしが黙っていると、シーはぬいぐるみを投げつけてきた。女子トイレの床をウサギが跳ねる。
「これいらない。ヘボイに返しといて」
「じゃあ、わたしがもらっちゃおうかな」
 拾い上げてぽんぽんと叩くわたしを見て、シーは舌打ちをする。
「わたし、ぬいぐるみ大嫌いなの知ってるでしょ!」
「でも男子の前では、そんな素振りは見せないよね。さすがだよね」
「ばか! 大嫌い!」
 シーが出ていくと、クラスメートが入れ替わりに入ってきた。
「モモの優しさにつけこんでるんだよ」
 知ってる。
「あんたが拒否しないからシーは我が儘に振る舞うんだよ」
 知ってる。
「我が儘が許されるか試してるんだよ。忠告するけど、離れたほうがいいよ。このままだと、あんた一生シーの奴隷だよ」
 なにそれ。
 笑い出したわたしに鼻白んだのか、クラスメートは出て行った。
 清掃道具入れの中にうさぎを閉じ込めたら、わたしも教室に戻ろう。