校長先生:当時、校長を務めていた方の娘さんだったそうですよ。鈴堂瞳さんといったかな。

私(黒月):ご自身の子ども、ですか?

校長先生:ええ。なんでも、ある日突然行方不明になってしまったんだとか。

私:そんな事情があったのですね。

校長先生:その時はさぞ悲しんだでしょうね。瞳さんは品行方正で、誰からも愛されるような子だったと聞いたことがありますよ。

私:そんな子がどうして……。

校長先生:とはいえ、つくられた後になってから、けろっと帰ってきたらしいんですがね。

私:え? 無事だったんですか?

校長先生:ええ。卒業後も時折小学校に足を運んだり、寄付なんかもしてくださって、ちょっとした有名人だったみたいですね。


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上記は、『ひとみの像』について、■■小学校の現校長である高橋先生にお話を聞いた時の音声データを文字起こししたものです。


『ひとみの像』は、私が通っていた小学校にある石像です。校庭の隅の遊具の裏にひっそりと立っています。

四角い台座は大抵の小学生の身長より高く、その台座の上にいる、やっぱり現実の子どもより少し大きい石でできた女の子が『ひとみ』です。

『ひとみ』は通学帽を被りランドセルを背負った姿です。

大人になった今になって見るとかわいらしい少女の石像なのですが、小学生の頃はどこか不気味に思っていました。

当時、それは子どもたちの間で共通の感覚だったと思います。ひとみの像にまつわる怪談が、いくつもありました。

夜になると動くとか、校庭に一人でいると追いかけてくるとか。
中でも怖かったのは、お風呂に入らないとひとみが家に来て「代わってよ」と声をかけられるというものです。

怖い話にお風呂が出てくると嫌なんですよね。お風呂って入るときは無防備だし、大抵の場合は一人だし。
それがなくても私はお風呂が怖いんですけど。


小学生の頃、私はひとみの像がつくられた理由が気になっていました。

『ひとみ』なんて偉人は知らないし、そもそもどうしてただの小学生の女の子の石像なんかがあるのだろうと疑問だったのです。


大人になった今になって私は、話を聞いてみることにしました。

とはいえ、幼い頃の疑問の解消のためではありません。
つい先日、『ひとみ』を見たからです。

■■小学校の校長先生は私の在校時とは替わっていましたが、卒業生だと告げると快くお話してくれました。

話を聞いた私は、鈴堂瞳さんのことをもっと知りたいと思いました。
けれど年齢を考えると、直接の知り合いもご本人も、とっくに亡くなっていることでしょう。

それならあれは、私の見間違いだったのでしょうか。

けれど私は確かに、木の上に立って笑う少女を見たのです。
それが余りにも記憶の中の『ひとみ』にそっくりだったのです。