【Q】
「ほら、この子だよ」
「本当に俺でいいのかな。こんな、こんなかわいい子……!」
「でなきゃ、会わせないよ。そうだろ」
ニヤニヤ笑いながら、友人はスマホをかざした。
画面にはかわいらしくも愛らしい、近い将来、俺のものになる彼女が写っている。
津山郁夫はごくりと唾をのんだ。
「たしか、ク、ク…クォーターだったよな」
「そう。純血じゃないけど、かまわないよな」
「もちろんだ」
どもったことが恥ずかしくて、津山は軽く咳ばらいをした。
「じゃ、明後日の土曜ね。段取りするから、まかせて」
「ああ、よろしく頼む」と津山は頭を深く下げた。
職場の同僚が次々とゴールインしていくのを横目で見ながら、焦りを感じなかったといえば嘘になる。
だが津山は生来淡泊な質で、のめりこむような恋愛は自分には一生縁がないだろうとあきらめていた。
恋愛に憧れはなかった。
だから、いずれは友人の紹介で無難な女性と無難につきあって無難な夫におさまるだろう。などという、なにも根拠がないことを、ぼんやりと夢想するくらいだ。
普通に生き、普通に死んでいく人生に、特別不満を感じないのは、世の中はそういうものだと信じているからでもあった。
だが津山はとうとう出会ってしまった。
大げさにいえば、津山は人生ではじめて、運命の意味を知った。
俺は彼女と出会うために独り身でいたのだと、確信した。
友人と駅で別れ、コンビニで唐揚げ弁当を買って帰る。
ふと、さきほどの友人との会話がよみがえった。
あのとき、ほんの一瞬だけ、言葉を忘れた。前のめりな感情が喉を詰まらせたのだ。
あの時、「クォーター」という単語がすぐに出てこなかったのが、脳機能の低下のわけはない。
普段使わない言葉をど忘れしてしまうなど、誰にでもあることだ。
津山は軽く笑った、すぐに忘れた。
その時点では津山は気づいていなかった。
世界が病に侵されていることを。
「ほら、この子だよ」
「本当に俺でいいのかな。こんな、こんなかわいい子……!」
「でなきゃ、会わせないよ。そうだろ」
ニヤニヤ笑いながら、友人はスマホをかざした。
画面にはかわいらしくも愛らしい、近い将来、俺のものになる彼女が写っている。
津山郁夫はごくりと唾をのんだ。
「たしか、ク、ク…クォーターだったよな」
「そう。純血じゃないけど、かまわないよな」
「もちろんだ」
どもったことが恥ずかしくて、津山は軽く咳ばらいをした。
「じゃ、明後日の土曜ね。段取りするから、まかせて」
「ああ、よろしく頼む」と津山は頭を深く下げた。
職場の同僚が次々とゴールインしていくのを横目で見ながら、焦りを感じなかったといえば嘘になる。
だが津山は生来淡泊な質で、のめりこむような恋愛は自分には一生縁がないだろうとあきらめていた。
恋愛に憧れはなかった。
だから、いずれは友人の紹介で無難な女性と無難につきあって無難な夫におさまるだろう。などという、なにも根拠がないことを、ぼんやりと夢想するくらいだ。
普通に生き、普通に死んでいく人生に、特別不満を感じないのは、世の中はそういうものだと信じているからでもあった。
だが津山はとうとう出会ってしまった。
大げさにいえば、津山は人生ではじめて、運命の意味を知った。
俺は彼女と出会うために独り身でいたのだと、確信した。
友人と駅で別れ、コンビニで唐揚げ弁当を買って帰る。
ふと、さきほどの友人との会話がよみがえった。
あのとき、ほんの一瞬だけ、言葉を忘れた。前のめりな感情が喉を詰まらせたのだ。
あの時、「クォーター」という単語がすぐに出てこなかったのが、脳機能の低下のわけはない。
普段使わない言葉をど忘れしてしまうなど、誰にでもあることだ。
津山は軽く笑った、すぐに忘れた。
その時点では津山は気づいていなかった。
世界が病に侵されていることを。