私達が生まれるよりもすっと、遙か昔から人は自分にない物を求めていた。
人権を求めて革命を起こし、土地を求めて戦争を起こし、自由を求めて独立する。
そして、、、、拝啓、天国のお父さん。私は今、知らない人に土下座されてます。
「頼む!俺達の指揮官になってくれ!」
白色の生地に袖口は金色の歯車の刺繍が施した外套をゆったりと見にまとった金髪の男性は数分前からこんな調子。
「あの、、、、ここだと人通りも多いので、近くの公園に移動しませんか?」
行き交う人々の視線に耐えられなくて、そっと声をかけると「わ、分かった」と慌てて立ち上がり、シルクハットを被った。

夜の公園は少し肌寒いので、入り口に立っていた自動販売機でコンポタージュを二個買って男性に渡す。
「女性に奢られるのは英国紳士を名乗れないな、、、、」と言って財布から百三十円を取り出して無理やり握らせる。交換はどうやら日本の物ではないらしく、見慣れない硬貨が手の平の上に置かれた。
この人は、日本人じゃないのだろう。でも、かなり流暢に日本語を喋る。
「あの、さっき言っていた指揮官という―――」
「君は、世界史を知っているか?」
私の言葉を遮って男性は言う。
世界史。中学校の歴史で習った。数百年のことを三年間で勉強するので、少しかじった程度だが、知っていると言われたら知っている。
「もし、その世界史が『なかったもの』にされたら?」
「、、、、え?」
なかったもの?
歴史じゃ過ぎ去った過去のことなので変えられないはずじゃ、、、、。
「例えば俺、産業革命がなかったら。産業革命の代表例とも言われる蒸気機関車の発達が遅れていたり、鉄道というものが存在せずに馬車が普及していたかもしれない」
空を見上げて少し考える。
電車の元は汽車なので、汽車は鉄道を走る。それがなかったら、、、、?
『寝坊した!自転車で行かなきゃ!!』
学校の通学路のはかなり長めの急な魚(生徒達はそれを失神坂と呼ぶ)を一時間漕いだ後、自転車で漕ぐことになる。
「それは、、、、絶対に嫌ですね」
男性は「そうだろ!」と何故か食い気味だ。
「そこで話を戻すが、現代社会の元となる世界史が勝手に改変される異常現象が発生している。その異常現象を引き起こしているのは、『歴史改変者』と呼ばれる奴ら。君にはそいつら倒す俺達に指示を出す指揮官になってほしい」
情報量が多すぎて上手く頭まで伝わらない。
「、、、、え?」
「あ、自己紹介遅れたな。俺は産業革命。よろしくな」
「、、、、え、えぇぇぇぇ!?」
日が暮れた午後七時。こうして、私は世界史の化身というよく分からない人に出会ってしまったのだ。