翌日、考子が夕飯の支度をしている時、スマホの着信音が鳴った。
 母親からだった。
 
「イヌの日はどうするの?」

「犬の日? うちはペットは飼っていないけど」

「なにバカなことを言ってるのよ。イヌはイヌでも十二支に出てくる戌のことよ」

「戌?」

 そこまで言われても、なんのことか、さっぱりわからなかった。

「安産を祈る習わしのことを知らないの?」

 そんなこと言われても知らないものは知らないのだ……と小さな声でブツブツ言っていると、「とにかく、今度の土曜日が戌の日だから予定しておいてね。新さんも一緒にね」

 それだけ言うと、勝手に電話を切ってしまった。

「もう、お母さんはいつもこうなんだから」

 ふくれっ面をした考子がスマホを睨んで、アッカンベーをした。