偵察魂 

 考子は2週間に一度の妊婦健診を受けるために、産婦人科を受診していた。
 いつものように、問診、内診、体重測定、血圧測定、尿検査、血液検査、経腟超音波検査を受けて、診察室で医師と向き合った。
 
「順調ですね。すくすくと育っていますよ」

 胎児にも母体にも問題がなさそうと聞いて、考子は胸を撫で下ろした。

「これから安定した時期に入っていきますから、体調も落ち着いてくると思いますよ。ですので、次は4週後に受診ください」

 これから妊娠7か月になるまでは月1回の妊婦健診でいいと告げられた。
 しかし、釘を刺すのを忘れなかった。

「安定な時期とはいっても流産や早産の危険性がないわけではないですから、体調には十分注意してください。そして、体に負担がかかることは避けるようにしてください。それと、新型コロナウイルスに感染しないようにマスク着用と手洗いとうがいを徹底してくださいね。それから、もし何かおかしいなと思うことがあったら、遠慮せずにいつでも受診ください」

「はい、わかりました。ありがとうございます」

 考子は腰を浮かせかけたが、話はまだ終わっていなかった。

 ちらっと考子の体を見た医師は、「つわりが収まると、今まで食べられなかった反動で食欲が増すことが多いので、食べ過ぎる妊婦さんも少なくありません。赤ちゃんの栄養のために適切な量を食べるのはいいのですが、急激な体重増加につながるような食べ方は赤ちゃんにも母体にも良い影響をもたらさないので、適切に食事量をコントロールしてください」と警鐘を鳴らしたのだ。
 
 考子はペロッと舌を出したあと、うつむき加減になった。
 体重増加の自覚があったからだ。
 医師が言うように、つわりが収まってからの食欲は半端なかった。
 ついつい食べ過ぎていた。
 なんとかしなくてはいけないと思っても、食べるのを止められなかった。
 でも、このままではマズイ、そろそろセーブしなければ、とも思っていた。
 そんな葛藤を見透かされたように感じた考子は、恥ずかしいやら不甲斐ないやらで気まずくなって、医師と目を合わせることができなくなった。
 うつむいたまま「ありがとうございました」と言って頭を下げてから立ち上がり、すごすごと診察室を出た。
 
 家に帰った考子はすぐさまネットで検索して、DVDを発注した。
 そして、「やるっきゃない」と自らに気合を入れた。