わたし 

 あっ、彼がやって来た。

 と思ったら、物凄い数の精子軍団が我先にと泳いできた。
 
 そんなには無理!
 
 逃げ出したくなったが、後戻りはできなかった。
 子宮に向かって進むしかないのだ。
 
 わっ! 

 一気に取り囲まれてしまった。
 誰もが必死になって卵膜を破ろうとしている。
 
 あっ、いっ、うっ、えっ、おっ、
 どうなってしまうの? 
 
 わたしは固まったまま身動きができなくなった。
 
 うっ、
 わっ、
 いろんなところから卵膜を突かれて……でも中々突き破られない。
 そうなの、最強の勇者しか入ってこられないようになっているのよ。
 だって、変なのが入ってきたら最悪だからね。

 わたしは膜に力を入れて、必死になって防戦した。
 すると、力尽きて脱落する精子が増えていった。

 でも、それでいいの。
 最強の勇者だけでいいのよ。
 それ以外はいらないんだからね。

 わたしは四方八方に睨みを効かせた。
 
 そのままの状態で10分が過ぎた。
 でも、誰も膜を突き破ることはできなかった。
 15分が過ぎてもわたしを守る透明な幕に頭を突っ込んでもがいているだけだった。
 しかし、20分が過ぎた時、突然変化が起こった。
 一番大きな精子が必死になって尾を振り、体をねじり、頭を突き動かして……遂にその時がやって来たのだ。
 膜から頭が出てきたと思ったら、一気に入ってきた。
 競争に勝った最強の勇者が中に飛び込んできたのだ。
 
 あ~、わたしの王子様。
 幾多の困難を乗り越えた最強の彼。
 どんなプロポーズの言葉をかけてくれるのかしら。
 じっと見つめていると、彼の声が聞こえた。