偵察魂 

「何処も売り切れなの」

 新が帰宅するなり、考子が悲痛な声で訴えた。

「売り切れって何が?」

「マスク」

「えっ、マスク?」

 考子は仕事帰りにドラッグストアを3軒ハシゴしたが、棚はすべて空っぽだった。
 新型コロナウイルスの感染を恐れた人たちが一斉に買いに走ったため、一気に在庫がなくなったらしい。
 その上、ショックなことを店員に言われたと嘆いた。
 
「何を言われたの?」

「次の入荷はいつになるかわからないって言われたの」

「入荷未定か~」

 新は腕を組んで天井を見上げた。

「どうしよう……」

 考子は床に視線を落として不安な声を出した。

「60枚入りが一箱あるだけだから、二人で使ったら1か月でなくなってしまうわ」

「そうか~」

 新はまだ天井を見上げたままだったが、何かを思い出したように小さく頷いて、考子に視線を戻した。

「明日の朝一番で病院の薬局に在庫があるかどうか聞いてみるよ。それと、友人が調剤薬局をやっているから彼にも聞いてみるよ。君も仕事帰りに別のドラッグストアに行ってみてくれないかな」

「そうね、そうする。どこかに残っているかもしれないから、探してみるわ」