「二つ」

「ブー。三つです」

「えっ、三つ?」

「そうです。三つです。トカゲって地面に這いつくばって生きているわよね。だから左右の眼だけでは辺りを警戒することができないのよ。そこで、頭のてっぺんにある神経節が発達して目の役割を果たすようになったと考えられているの。それが頭頂眼(とうちょうがん)よ」

「へ~、そうなんだ~」

 新はじっとしたまま両目をめいっぱい上に向けた。
 しかし、眉毛さえ見ることはできなかった。
 
「これでは上空から襲ってくる敵を察知することはできない……」

 ブツブツ言いながらも、合点がいったようだった。
 
「でも、今のトカゲが持つ頭頂眼は先祖の痕跡でしかなく、その眼で何かを見ることはできなくなっているの」

「じゃあ、どんな役割があるの?」

「光よ」

「光?」

「そう。光に反応する器官になっているの。それは羅針盤(らしんばん)と言い換えてもいいわね。太陽の位置を測る羅針盤。それによって自分の正確な位置を確認していることがわかっているのよ。それと頭頂眼によって感知した光の情報が松果体に伝えられてメラトニンの分泌に繋がっているの。人類は二足歩行になって高い位置から辺りを見回せるようになったし、首を大きく上に動かせるようになったから、上空を警戒するための頭頂眼も光を察知するための機能もいらなくなって、松果体だけが残ったのかもしれないわね」

「そうか~」

 そこで新は僅かに首を傾げたが、すぐに何かを思いついたような表情に変わった。