テーブルの上には、クロワッサンと一口サイズに切ったバナナが別々の皿に盛られていた。
 そして、二つのコップには牛乳が並々と注がれていた。
 
 台所に立った新は「すぐにできるからね」と言って、フライパンに卵を二つ割った。
「目玉焼きを半分こでいい?」と言ったが、考子の同意は求めなかった。
 冷蔵庫の中の卵は二つしか残っていなかったのだ。
 
 焼き加減は考子の好みに仕上がっていた。
 黄身が固すぎず、柔らかすぎず、トロっとして口の中に広がった。
 その瞬間、顔が恵比寿さんになった。
 
 食べ終わったあと新が皿を片付けて、コーヒーメーカーにカプセルを入れた。
 そして、「外は寒そうだから、今日は一日家でのんびりしようよ」と言って、一体型オーディオコンポにCDをセットした。
 
 曲が流れてきた。
 考子の大好きな曲『KARI』だった。
 アメリカのジャズピアニスト『ボブ・ジェームス』と、ジャズギタリスト『アール・クルー』が共演した素敵なアルバムの1曲目。
 ミステリアスなイントロからナイロンギターが奏でるメインメロディーになり、エレキピアノの軽やかな音に繋がっていく。
 たおやかに穏やかに包み込むように流れるメロディーとリズムに考子が身を委ねていると、カプチーノが運ばれてきた。
 考子は香りを楽しんだあとで口に含んだ。
 
 ん~、この音楽にピッタリ。
 
 考子はまた恵比須さん顔になった。
 
「40年前の録音とは思えないよね」

 新が感心した様子でアルバムジャケットを見た。
 元々の録音が素晴らしい上に、新しい技術でリマスタリングされ、更に音が良くなっている。
 その上、世界的スピーカーメーカーが開発した一体型オーディオだけあって、低音から高音まで全域でクリアな音が再生されている。
 更に、独特のシステムによる臨場感が半端ない。
 
「賞を獲っただけあって素晴らしい曲ばかりだしね」

 二人はしばらくグラミー賞受賞アルバム『ONE ON ONE』の調べに身を委ねた。