「単細胞の微生物よ」

 なんの感情も交えないで事実だけを告げると、「それが生命の始まりなのか……」と新は首を傾げて顎に左手を当てた。
 単細胞の微生物と聞いて細菌のことが頭に浮かんでいたのだ。
 しかし、人間が細菌から進化してきたというのはすぐには受け入れがたかったし、かなり複雑な心境になった。
 それでも、そんなことを知る由もない考子は淡々と説明を続けた。
 
「そこから進化の歴史が始まったの。簡単に言うと、単細胞生物が多細胞生物になり、それが無脊椎動物になり、そして脊椎動物になり、哺乳類になり、霊長類になり、類人猿になり、ヒトが生まれたのだけど、その進化には38億年という途轍もない時間が必要だったの」

 すると、悠久という言葉が新の頭の中に浮かんだ。
 と同時にお腹が鳴った。
 時計は夜の7時を回っていた。
 
「あらあら」

 笑いをこらえた考子はキッチンに向かい、食後に話す内容を考えながら鼻歌交じりで食材を切り始めた。