「どうしたの? 何かあったの?」

 ニコニコしている考子を見て、帰宅した新は不思議そうに顔を覗き込んだ。

「いいことあったんだ。何? 何?」

 考子の両手を持って、左右にゆらゆらと揺らせた。

「教えてあげないよ~ダ」

 考子は甘えた声でイヤイヤの振りをした。

「なんだよ~」

 新がふくれっ面の真似をすると、考子は右手の人差し指で新の鼻をチョンと突いた。

「当ててみて」

 考子はニコッと笑った。

「そう言われても……」

 新は何も思いつかなかった。

「焦らすなよ」

 自分の鼻を考子の鼻にくっつけて至近距離で目を覗き込んだ。

「あのね」

 考子は新から体を離して、自分のお腹に手を当てた。
 そして「コウノトリさんがね」と言った途端、新の目が大きくひん剥かれた。
 
「できたのか?」

 考子が大きく頷くと、「ヤッター」と喜びを爆発させた。
 そして、「でかした!」と叫んで考子を強く抱きしめ、背中を叩こうとした。
 しかし、すんでのところで止めた。
 
 危なかった。
 背中を叩くなんて、とんでもないことだ。
 彼女の中で芽生えた宝物に影響があってはならない。
 新は考子の背中にそっと触れて、上下にゆっくりと撫でていった。
 そして、今度は労わるように優しく抱きしめた。
 
「ありがとう……」

 感極まった新の想いがひとしずく頬を伝わった。