わたし 
 
 生まれたと同時に胃も腸もほとんどすべての臓器が動き始めたの。
 視覚、聴覚、臭覚も全開になったわ。
 そのせいか、とにかく眩しいの。
 薄暗い羊水の中で40週間浮かんでいたわたしにとって、外界の光は強烈すぎるの。
 それに、うるさすぎる。
 やかましいと言い換えてもいいくらいよ。
 それまではボワ~ンとしか聞こえなかったのに、音が大洪水となって飛び込んできたのだから仕方がないんだけど、鼓膜が破れるかと思うくらい強烈だわ。
 何もかも強烈過ぎて怖くなってきたし、そのせいか、体がブルブル震え始めて、止まらなくなってきたの。
 でも、ママに抱かれた瞬間、すっと気持ちが落ち着いたの。
 
 あっ、この匂いは……、
 
 ママの匂いだ。
 絶対間違いない。
 わたしはしっかりママの匂いを覚えていたの。
 それから、優しく抱っこしてくれているこの手も。
 いつもお腹を優しく擦ってくれていた手だとわかったわ。
 
 あっ、聞き慣れた声、
 
 ママの声だ。
 絶対間違いない。
 わたしにとって世界で一番優しい声だから、間違うはずがないわ。
 でも、この声を聞いていたら目がトロンとなってきちゃった。
 安心したせいか、眠くなってきちゃったの。
 もう瞼を開けることはできないみたい。
 夢の中に入っていくわね。
 と思ったら、突然口の中に何かが入ってきたの。

 何? ってびっくりしたけど、思わず吸い付いちゃった。
 それでわかったの。
 ママのオッパイだってことが。
 チューチューすると甘~いものが口の中に入ってきたの。
 とっても美味しいから止められなくなっちゃった。
 だって、お腹は空っぽでペコペコだったからね。
 それに、初めてのお乳には大事なものがいっぱい詰まっているっていうから、必死になって吸い続けたの。
 
 いっぱい吸ったからお腹がいっぱいになって、今度こそ夢の中に入ろうと思ったんだけど、なんか気持ちが悪くなってきた。
 というよりも苦しくなってきたし、吐きそうになってきたの。
 
 ヤバイ、って思った瞬間、背中を優しくさすられたの。
 下から上へと何度もさすられたの。
 すると、体の中から何かが出てきたわ。
 ふ~って出てきたの。
 多分おっぱいと一緒に飲み込んだ空気だと思うわ。
「ゲップ」っていうような音がしたから、間違いないわ。
 その途端、気持ち悪さが消えて楽になったの。
 今度こそ眠れそうな気がするわ。
 ではしばらく眠るわね。
 おやすみなさい。