「今の状態は国難と言っても過言じゃないわ。本当にヤバイと思うの。毎年毎年、出産適齢期の女性が減り続けていて、その上、結婚しない女性の比率が上がっているのよ。このままでは出生数がどんどん減っていくわ」

 鼻を膨らませると、新が強い口調で応えた。

「おまけに低賃金で働く若い人が増えて、子供を持つことを最初から諦めている人が多いんだ。これって、将来に希望を持てない人が増えているってことなんだよ。非正規社員の問題、低賃金の問題をなんとかしないと抜本的な解決にはならない」

「そういう意味では経営者の意識改革も必要よね。利益を貯め込むことばかりに目が行って、賃上げを渋り、正社員登用を渋り、長時間労働を放置し、社員の幸福を後回しにしているのだから」

「それだけじゃないよ。マタハラの問題も重大だ」

「本当ね。妊娠したら辞めてくれ、出産したら辞めてくれ、短時間勤務なんてとんでもない、そんなことを平然と言う経営者や上司が余りにも多すぎるわ」

「その通りだね。社員あっての会社なのに、そのことをわかっていないんだよ。子供が産めないような賃金や職場環境を放置している経営者の頭の中を見てみたいよ。多分スカスカのカラカラだと思うよ」

「その通りよ。だから少子化対策に真剣に取り組まない政治家や役人、経営者は国賊と変わらないわね」

 二人の言葉はどんどんエスカレートしていった。
 それは苛立ちの大きさの裏返しでもあったが、子供を授かるために愛し合った二人にとって、この現実は受け入れがたいものだった。
 
「もし私が妊娠していたら……」

 人口減と国力衰退が待ち受ける中で生まれるかもしれない我が子、その行く末に思いを馳せた考子は不安そうにお腹に手をやった。