考子は陣痛が来たらいつでも入院できるように出産準備を進めた。

「母子健康手帳、よし。健康保険証、よし。現金、よし。スマホ、よし。ナプキン、よし。タオル、よし」

 一つ一つ指差し確認をして、その度に頷いた。
 それからメモを取りながら、買い揃えておいたマタニティパジャマやカーディガン、産褥(さんじょく)ショーツや産褥パッド、授乳用ブラジャーや母乳パッドなどを入院用のバッグに詰めていった。
 
「これはどうしようかしら?」

 実家から送られてきた大量のベビーウェアやバスタオル、ハンドタオルを前に小首を傾げた。

 すると、新が助け舟を出してくれた。

「最低限必要な分だけバッグに詰めておけばいいよ。足りない分は僕がすぐに持って行ってあげるから」

「そうね、そうしよう。じゃあ、これとこれとこれ。あとは置いておくわ」

「それはそうと、君のお母さんは凄いね~」

 足の踏み場もないくらいに方々(ほうぼう)に置かれたベビーグッズを見て新が首を横に振った。
 そこには、ベビーベッド、布団、ベビーラック、ベビーカー、チャイルドシート、抱っこひも、ベビーバス、沐浴用品などで溢れかえっていた。
 
「そうなの。私になんにも聞かずにどんどん送ってくるから……」

 お手上げというふうに両手を広げた。

「だから、あなたのお母さんには気を遣わないようにちゃんと言っておいてね。これ以上モノが増えたら手に負えなくなってしまうから」

 うん、わかってる、というように新は大きく頷いた。
 しかし、後ろ手にした掌の中には母親からのお祝いグッズ一覧表が握りしめられていた。
 
「オフクロになんて言おうか……」

 新の呟きが口の中で消えた。