講義が終わると、妊婦体操が始まった。
 安産エクササイズだった。
 考子は自宅で毎日やっているので、難なくこなすことができた。

 それが終わると、沐浴(もくよく)実習の時間になった。
 ベビーバスにぬるま湯を入れて、そこに沐浴剤を溶かし、実物大の赤ちゃん人形を使って沐浴させるのだ。
 沐浴剤メーカーの女性担当者が壇上で見本を見せてくれたあと、「どなたかやってみたい方いらっしゃいますか?」と呼びかけがあった。
 見ていると簡単そうだったので、自分にもできそうだと思った考子は、少し恥ずかしかったが、手を上げて初めての沐浴体験に臨んだ。
 しかし、簡単ではなかった。
 実際やってみると、見ているよりも難しかった。
 人形が結構大きくて、重くて、片手で支えるのが大変だった。
 それに、ガーゼで体を洗っている時、洗う方に気が取られて大変な失敗をしてしまった。
 
「あらあら、赤ちゃんのお口がお湯の中に入っていますよ」

 近くで見ていた助産師さんの声に驚いて見てみると、口も鼻もお湯の中に潜っていた。
 
 ワッ、と叫んで考子は慌てて人形を引き上げた。
 その時、勢い余って助産師さんにお湯をかけてしまった。
 ウワー、
 真っ赤な顔になった考子は何度も頭を下げて謝り、おどおどとメーカーの女性に人形を返した。
 
「もう、最低!」

 席に戻っても落ち込み続けている考子の肩に優梨恵が優しく手を置いた。
 
「初めてなんだから仕方ないわよ。それに、一度失敗したら同じ間違いをしなくなるから、今日失敗して良かったのよ。失敗は成功の母って言うからね」

「ありがとう」

 慰めの言葉で気を取り直した考子は、自分の子の時は絶対に失敗しないと気を引き締めた。