偵察魂 

 かなりお腹が大きくなってきた考子は、最後となる母親学級に出かけた。
 新型コロナ感染対策のため先着40名限定だったが、ラッキーにも滑り込めたのだ。
 本日のテーマは『妊娠後期から産後まで』だという。
 出産に向けての準備や入院する時期、そして、育児に関する様々なことを教えてくれるらしい。
 
 考子は開始時間ギリギリに会場に到着した。
 中に入ると、間隔を開けた椅子に座るマスク姿の妊婦さんで埋まっていた。
 顔なじみの人もいたので、何人かと目礼を交わしながら彼女の姿を探した。
 すると、中央より少し後ろの方で考子に向かって手を振っている人が見えた。
 優梨恵(ゆりえ)だ。
 母親学級に通ううちに一番仲が良くなった妊友(にんとも)で、隣の席を確保してくれていた。
 
「ありがとう。助かったわ。バスがなかなか来なくて、遅刻しそうで焦っちゃった」

「大変だったわね。でも、遅刻しそうになったとしても走ったらダメよ。転んだら大変なことになるんだから」

「うん、わかってる。おなかの赤ちゃんが最優先だからね。大丈夫」

 二人はせり出してきた互いの大きなお腹を見つめ合って、笑みを浮かべた。

「今日は講義や妊婦体操だけではなくて、分娩時の呼吸方法や人形を使った沐浴実習があるから、ちゃんと勉強しなくちゃね」

「それと、先輩ママの体験談を聞いて質問もできるらしいから、楽しみよね」

 二人はバッグから手帳とボールペンを取り出して、臨戦態勢に入った。
 
 講師が壇上に上がった。
 ベテランの助産師だった。
 話がとても上手く、経験に基づくウイットに富んだ話術に考子は引き込まれていった。