「ロールモデルか~」

 そう呟いた途端、脳裏に一人の女性が浮かんだ。

「いるわよ。いる、いる」

 急に元気になった考子にびっくりして真理愛が少しのけ反った。

「産休を取った女性の首相がいたじゃない」

 すると、アッというような表情になった真理愛が記憶の引き出しを手当たり次第に開けていった。

「思い出した。ニュージーランドの首相だ」

「そうよ、なんて言ったっけ……、え~っと、そうだ、アーなんとかっていう人よ」

「アー、アー、アー……」

 二人が首と両手を縦に振りながら「アー」と何度も口に出して思い出そうとした。

「アー、アー、アー、アーダーン!」

 真理愛が正解の引き出しに辿り着いた。

「そう、アーダーン首相だ!」

 考子が真理愛の手を取って上下に揺らした。

 ニュージーランドのアーダーン首相は現職の首相として世界で初めて産休を取得した政治家だった。
 首相就任直後に妊娠を公表したばかりか、その後、6週間の産休を取得することを公にし、世界中の注目を集めていた。
 
 彼女は18歳の時に政党に入党した。
 その切っ掛けは、格差や貧困の問題に幼い頃から関心を持っていたことだった。
 だから、大学卒業後は当時の女性首相の事務所で働いて、政治に対する関心を更に高めていった。
 その後、政治家を目指して議員選挙に立候補し、見事当選を果たすと、女性や子供の権利を守る活動に力を入れ、37歳の若さで首相に就任することとなった。
 そして、出産後に産休を取得したばかりでなく、復職後は国連総会に子連れで出席するなど、仕事と子育ての両立を見事に成し遂げている。

「政治の世界を目指す女性ばかりか、働く女性のロールモデルよね」

「その通りね。でも、ニュージーランドにその土壌があったことも見逃せないわ。彼女は三人目の女性首相だからね」

「そうか、そういう土壌があったのね。女性が国を率いることに違和感がない風土が出来上がっていたんだ。その土壌の上に彼女が花を咲かせたのね」

「そうだと思う。ローマは一日にして成らず、ということね。先人たちの苦労と周りの理解があったからこそ、世界初の快挙に繋がったのよ」

「そうね。私たちも愚痴やため息ばかりついていてはいけないわね」

「そう。できない理由を言うのではなく、どうやったらできるかを考えないとね」

 二人の目が未来を向いて輝いた。
 そして、自らを激励するように同時に声を発した。
 
「女性よ大志を抱け!」