帰宅した新に近所に解体工事をしている古い家があることを伝えると、彼は早速ネット検索を始めて、タブレット端末を食い入るように見ていたが、突然「嘘だろ!」と大きな声を出した。
 びっくりした考子が画面を覗き込むと、厚生労働省のホームページが映し出されていた。
 中央環境審議会大気・騒音振動部会の石綿飛散防止小委員会第一回の議事録だった。
『今後の解体等工事件数の増加について』と題されていた。

「事前調査の対象となる解体などの工事件数は年間73万件から188万件と推定されていて、その工事件数のピークは2028年になるんだって。これから10年近くも古い建物の解体工事が増え続けることになるらしい。ん? その下に小さな字で但し書きが書いてあるぞ。なになに? この予測を大きく上回る可能性がある? なんだそれ」

 二人は目を合わせて、大変だ、というふうに首を振った。

「知らなかったわ、こんなことになっているなんて。解体工事の近くに住んでいる人はわかっているのかしら。工事業者はきちんと飛散防止対策をやっていると思うけど、もし飛散していたらどうなるのかしら。学校帰りの小学生が何人も解体工事現場近くをマスクもしないで歩いていたけど、あの子たちが吸い込んでいたら大変なことになるわ」

 考子は言葉を失った。
 新もただ首を振るばかりだった。