「なんだこれ?」

 4月21日の夕刊を読んでいた新が素っ頓狂な声を上げた。
 考子がそれを覗き込むと、原油価格に関する記事が目に入った。
 ニューヨークの原油先物市場で史上初めて価格がマイナスになったと書いてあった。
『5月物に投げ売り殺到!』の強調文字が踊っていた。

「マイナスってどういうこと?」
 考子は書いていることが理解できなかった。

「僕にもよくわからないけど、1バレルがマイナス37.63ドルになったということは……、原油を1バレル買ったら37.63ドル貰えるということになるのかな?」

「えっ、それって、お金を付けて原油を売るってこと?」

 考子はガソリンスタンドで灯油を買う場面を思い浮かべた。
 1円も払わずに灯油を受け取って、その上更に店員から千円札を貰っている場面だった。
 頭がこんがらがってしまった。
 
「ありえない話だけど、そうなんだろうね」

 新は狐につままれたような顔をしたが、それでもなんとか理解しようと、新聞の記事を読み上げ始めた。

「新型コロナウイルスの影響で世界中の経済活動が停滞した結果、原油需要の激減を招き、その影響で在庫が急増した。それにより保管スペースが枯渇して買い手が付かなくなった。それを見たファンドが投げ売りを始めた。すると、1分で10ドル以上下落する場面もあり、午後2時過ぎには0ドルを割った。そして2時30分には一気にマイナス37.63ドルまで崩れた」

 読み終わって状況が把握できた新が何度も頭を振った。

「大変なことが起こるかもしれない……」

 頭の中には世界恐慌という文字がグルグル回っていた。