当日になった。

「まあ、新さん素敵ね」

 会うなり、考子の母親が口に手を当てた。
 いつもはジーパン姿の新がスーツにネクタイという出で立ちで現れたからだ。
 
「考子も素敵よ」

 娘の晴れ着姿を見て、母親はホッと胸を撫で下ろした。

 実は、前日まで母娘で意見が分かれていたのだ。
 着物を着るべきだと言う母とカジュアルな服で行きたいと言う考子の意見は平行線のままだった。
 そのことを病院から戻ってきた新に話すと、「これも親孝行だと思って、お義母さんの言う通りにしたらどう?」と意外なことを言われたので、「あなたはどっちの味方なの?」と食ってかかったが、冷静になって考えてみると、今まで親孝行らしいことはほとんどしてこなかったので、たまにはいいか、という気持ちになって、母親の意見を受け入れたのだ。
 
 しかし、一人では着物を着ることはできない。
 もちろん、新ではなんの役にも立たない。
 そこで、行きつけの美容院に頼んで、今朝早い時間に着付けてもらったのだ。
 
「着慣れないから窮屈なのよね」

 ただでさえお腹が張っている上に帯で締め付けているから、〈なんか変な感じ〉というのが拭えなかった。
 それでも、出かける時に新が「とっても綺麗だよ」と褒めてくれたので、満更でもない気持ちになったのも確かだった。