「ルーク様! ルーク様!」
 ドンドンドンと扉を叩く音にキャルの身体がビクッと揺れる。

「どうした?」
「森を! 森を見てください!」
 扉が開くのが先か、話しかけるのが先かと言うほど慌てた家令の指示に従い、ルークはベッドから起き上がると窓へ。

「……霧が、晴れている?」
「こんなに晴れたのは5年ぶりです」
 まだブルーノ様が生きておられた日以来ではないでしょうか? と大興奮の家令は、ベッドの上の小さなキャルを見ながら涙を浮かべた。

「あぁ、お犬様、ありがとうございます。本当にありがとうございます」
 祈りでも捧げそうな雰囲気のおじさんにキャルは首を傾げる。

 キャルはルークにベッドから抱きかかえられ、窓から外の景色を見せられた。
 部屋の窓から見えるのは森と街。
 森の手前の方は普通の森で、奥の方は霧がかかったようにモヤモヤしている。

 ……なにかおかしいの?

「キャルのおかげだ」
 抱きかかえられたまま頭をグリグリ撫でられるけれど、どうして私のおかげ?
 
 よくわからないけれど、ルークが嬉しそうだからまぁいいか。
 キャルはまん丸の目をルークに向けながらペロッと舌を出した。
 
 
 豪華な朝食のあとは抱っこされてお散歩だった。

「キャウ?」
 散歩だよね?
 自分で歩いた方がよくない?

 ルークは黄色の紐が付けられた木の横を歩いていく。
 目印なのかな?
 この森って迷子になるの?

「……すごいな、瘴気の霧が晴れている」
 全然苦しくないとルークは驚きながら進んでいく。
 黄色の紐はいつの間にか赤い紐に。

「瘴気濃度が基準値以下か……」
 ルークは瘴気測定器を見ながら信じられないと呟いた。