「キャン!」
 ねぇ、ちょっと女神様。
 確かに私は犬が好きです。
 子どもの頃から大好きです。

「キャウ!」
 だからって、自分が犬になりたかったわけじゃありません!

 このふさふさの小さな足、小型犬ですよね?
 靴下を履いたみたいな先だけ白い足は可愛いですけど!
 
「キャウ、キャウ!」
 それにここはどこですか?
 森にいきなり落とすってどういうことですか?
 なんでイケメン同士が肩を組んでいるんですか?
 なんであの後ろの人たちは倒れているんですか?

「キャウ!」
 ねぇ、絶対ヤバいところに落としましたよね?
 これは一体どういうこと~!?
 
 短い足を地面に叩きつけながら吠える小さな犬。
 
「あれは怒っているのか?」
「……きっと怒ってるね」
 ルークが犬を指差すと幼馴染のチャーリーは、犬を見ながら苦笑した。

「なんか、ビックリするくらい気分が良くなったんだけど」
 チャーリーはルークの腕を外し、一人で立つ。

「隊長、俺も苦しかったのが嘘みたいに」
「迷惑かけてすみません。俺も、もう大丈夫です」
 気を失った隊員以外、苦しそうだった隊員たちの顔色が戻っている。
 
「……どういうことだ?」
 あの犬のおかげか……?
 瘴気に侵された人まで救えるなんて。
 そんな話は父から聞いたこともない。

 それに、犬になる前は金髪の教会の壁画に描かれた女神のような姿だった。
 神なんて信じていない。
 だが、本当に女神が実在して、俺たちを救ってくれたのか……?
 
 ルークは小さな茶色の犬にゆっくりと近づく。
 犬の首の後ろをヒョイッと掴むと、ルーク以外の全員が慌てふためいた。